『華竜の宮』(上・下)/上田早夕里 ◎


上田早夕里さんの、〈オーシャン・クロニクル〉シリーズ
260メートルもの海面上昇が起き、人類が生活できる陸上が激減した世界。
少ない陸地と人工海上都市で暮らす「陸上民」と、海上で暮らせるよう、身体改造(遺伝子改造)して作られた「海上民」。
群島と化した各国がいくつも集まる汎地域同士が、政治的に争う。
タイトル『華竜の宮』が意味するものは、上巻ラストで明らかにされるのですが、いやあ・・・とても面白い作品でした!!
このシリーズは、設定がかなりしっかりしていて、SFのサイエンスな部分にはちょっとついていけてない超絶文系人間のワタクシではありますが、それでも楽しんで読めました!すごい!!

海洋公館の外交官・青澄とアシスタント知性体・マキ、とある海上民の船団の長・ツキソメとその魚舟・ユズリハ、海上民から汎アジア政府の高官となったツェン議員、その弟で海上警備隊の隊長・タイフォンとそのアシスタント知性体・燦と魚舟・月牙・・・、様々な立場の登場人物(魚舟も海上民の双子である以上、人物扱いでいいのではと思っています)が、トラブルや政略の攻防の中、いかにしてよりよく生きるかを模索し、厳しく困難の多発する日々を乗り越えていく様子が、複雑にそして丁寧に描かれていきます。

あまりに色々なことが起き、それぞれが駆け引きをし、誰もが納得するような落としどころがない事態をなんとか収めても、次々と困難が襲ってくる。読んでいて、胸が痛くなりました。

衝撃的なエピソードが続く中、一番ショッキングだったのが、獣舟を退治したあとその住処だった洞窟から子供たちが数人飛び出してきたのだけれど、彼らは泣くばかりで言葉が全く通じない。そして、よくよく彼らを調べてみると、彼らは獣舟の変異体だった…というシーン。
海上民の双子の片割れである、魚舟。自分の双子と巡り合うことができず、野生化したものが獣舟。その獣舟たちは、どう猛な食欲に突き動かされ、変異して陸上に上がり、人間を襲う。変異はさらに複雑化していたのだけど、偶然とはいえまさか人間の子供の姿に変異するとは・・・。あの子供たち(のようなもの)は、いつしか人間に襲い掛かるのだろうか。外見からでは、まったく区別のつかない彼らを、人間は駆除することができるのか。何より、もとは人間であった獣舟を駆除することの是非はどうなのか・・・。

さらに衝撃的なのが、ツキソメが実は獣舟の変異体であるという事実。人の姿を取り、人として違和感なく暮らしていくも、言語を習得することができず、脳外科手術によって思考と言語を自分のものとし、船団の長として生きてきた彼女。
〈大異変〉を生き残るための新種族を作り上げるために必要な彼女の生体データを、汎地域政治圏に独占させることなく世界的な研究機関に渡すために、青澄は様々な交渉・戦略を駆使して、自分やツキソメを危険に晒しながらも、苦難を乗り越えていく様子には、本当に目が離せませんでしたね。

その青澄も、彼のアシスタント知性体・マキも、ツキソメも、大きな権力からの圧力や暴力に会いながらも、ひたすら真摯に最善を尽くそうとしていることに、希望が持てました。
たとえ、避けられない〈大異変〉であるとしても、人類の生き残りあるいは〈人類〉という種族が生きた証を後世に残すことを目指して、彼らのような人々が力を合わせ、切り開く未来に希望があらんことを、心から願ってしまいました。

ツキソメの生体データから作られたルーシィ、〈大異変〉を前に建設される海上民のための海上都市、これらのエピソードは、今までに読んだ『魚舟・獣舟』『獣たちの海』に描かれていました。
これら以外にも、壮大な世界観の中で外伝的エピソードがたくさんあるんだろうなと思うと、〈オーシャン・クロニクル〉シリーズの世界をもっと知りたくなりますね。

本書の中で、とうとう〈大異変〉が起こり、〈プルームの冬〉が続き、人類は滅亡を迎えたのでしょうか。
ルーシィが生き抜いたのちの世界も、見てみたいです。
宇宙空間へ進出した、アシスタント知性体たちの物語もあるのでしょうか。
ラストで、青澄のアシスタント知性体・マキのコピーが、宇宙に進出。
青澄のパートで語り手がマキだったのには、こういう理由もあったのですね。人類が生きた証を、宇宙に託す。壮大で、夢があって、少しだけ切ない。
それでも、どんなに絶望的な状況においても何らかの希望や期待を見出す人類という存在の強さに、救われている気がします。

(2024.05.05 上巻読了)
(2024.06.10 下巻読了)

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