悪い因果が絡み合いすぎてて、どっと疲れました・・・。
イヤミスという感じではなく、少しずつ崩れていく主人公の「幸せの土台の脆さ」がこれでもかと畳み掛けてくる展開が、息苦しかったですねぇ。
言ってしまえば、因果応報。安易に走ったが故の、不幸。
宇佐美まことさんの作品は今まで読んだことがなかったのですが、なかなかにズッシリ来るものがありましたね。
『黒鳥の湖』というタイトルから想像していた、「白鳥の群れの中の唯一の黒鳥の疎外感」ではなく「誰もが黒鳥であった」という物語に、げっそりしてしまいました。
伯父から引き継いだ財産を元に起業して規模拡大し、大手企業へと成長させた、財前彰太。美しい妻と一人娘、社長を務める会社は人材に恵まれ成長している。
順風満帆なはずの彼の心をざわつかせるのは、巷を騒がせている「肌身フェチの殺人者」の犯行。
調査事務所に勤務していた時代に、とある老人の依頼で探していた誘拐犯の犯行が、それにそっくりなのだ。
そして、彰太にはその老人の執念を利用して、自分の伯父を誘拐犯に仕立て上げ殺させた、という誰にも言えない過去があった。
あのときの本当の犯人が、時を経てまた同じ犯罪を犯しているのではないか・・・。
18年前の伯父の殺人に関して、たまたま犯人が捕まらなかったから良かったものの、素人の老人が殺人を犯したら簡単に捕まりそうだと思うんですが、そんな雑な計画に賭けるのは、あまりにリスクが高いんじゃないでしょうかね・・・。
その点に関して、なんだかなぁと思ってしまいました。
娘の非行、妻のとある寺の大黒様(住職の妻)への依存、娘の失踪と「肌身フェチの殺人者による誘拐らしい証拠」、自身の会社からの社長解任騒動、娘の出生の秘密(彰太の知る秘密とそれにを輪をかける秘密)、18年前の老人の世話をしていた家政婦、大黒様と若院(大黒様の息子)の真実の姿、彰太が少年鑑別所へ行くことになった犯罪。
・・・うへぇ・・・。巡り巡って、そこに来るか。
都合よくすべてが因果応報になってる部分は、ちょっとご都合主義的な気もするけれど、悪い因果はぐるぐると絡み合いながら相乗効果でより悪いものをおびき寄せて・・・。
すべての色が混ざり合うとき、それは黒になる。どろりと濁った色が、濁りを極めて黒一色に染まる。
それぞれが欲望を追い求めた結果が、ひたすらに黒く染まる。
唯一の救いは、彰太の娘・美華が北海道で再生できたこと。
美華は、親たちの因果などに巻き込まれることなく、明るい未来を切り開いていって欲しいと願っています。
冒頭の窃盗事件の結末により植物状態になった彰太の妹・郁那の独白で、物語は終りを迎える。
ずっとずっと、彼女は夜の中にいる。植物状態で反応は出来ないけれど、自分の中でだけ覚醒している。
そんな彼女は、希望なのだろうか。それとも、巡り巡る因果の象徴なのだろうか。
(2024.05.14 読了)
この記事へのコメント
苗坊
私もこちらの作品を読みました。そして初読み作家さんだったのですが、なかなかに重たかったですよね…
「因果応報」という言葉がずしりとのしかかる作品でした。重たいけど面白くて気になって、読む手が止まりませんでした。
私も美華が自分を投げ出さずに生きようと思えたことが救いだったなと思います。
水無月・R
読みながら、あ~これは悪い方へ転がっていくなぁという予感とやっぱりそうなるか~という結果がワンセットになって、重苦しかったですねぇ。
美華の再生は救いでしたが、妹の郁那はどうだったんでしょうね。本人の独白の中では、幸せだったようですが・・・。