『たおやかに輪をえがいて』/窪美澄 △


いやぁ、なんていうかね、文章はとてもいいのですよ。読みやすく、登場人物の造詣もしっかりしてる。
なんですが、どうも本作『たおやかに輪をえがいて』の主人公・絵里子の煮え切らなさに、イライラしてしまうのですよ。
窪美澄さん、初読みでこの感想は、ちょっと申し訳ない気がしますね・・・。

私と絵里子は同年代のパート主婦、子供も大学生になって手がかからない、平凡であることすら〈同じ〉と言えそうなのに、全然共感できなかったのですよ。
共感できりゃいい、ってもんでもないんでしょうけどね・・・。

ある日、夫が風俗店通いをしていることに気付いてしまった絵里子。もやもやを抱えながら、自分が飲み込めばいいのか、問いただすべきなのか、などと迷っていたある日、娘が警察に保護され夫婦で迎えに行く事になる。
夫は娘を叱りつけ、娘は反抗し、その流れで「風俗店のポイントカードを見つけてしまった」「ここを離れたい」と夫に告げ、絵里子は家を出る。
友人の詩織の勧めで、海辺の温泉ホテルの数日滞在し、その後自宅に戻ることなく、ランジェリー店を経営している詩織が倉庫代わりに所有しているマンションで暮らしながら、詩織の店を手伝い、生計を立てる絵里子。
母の再婚相手の死亡、その葬儀の場で夫と再会するも家には戻らず、詩織のマンションで暮らし続ける絵里子。
詩織の店の店長になり、夫と知り合った小さなバーに、再会を期待しながら時々通う。
クリスマスが近いある日、夫とバーで再会し、一緒に店を出る。
一緒に家に戻るのか、駅で別れるのか、詩織のマンションへ一緒に行くのか・・・まだ決めていない、というところで物語が終わる。

まず、ランジェリー店を経営している詩織という友人がいて、そのマンションに住めて、店も手伝えて(もちろんちゃんと努力はしてるのだけど)って、なかなかないことですよね。そんなふうに住居も職もあてがってくれる友人なんていう都合の良い存在は、あまり普通にはいない。

家を離れる前も、ずーっとグズグズ悩んで「なかったことにしたいが、自分の中で飲み込めない、辛い」って、なんか甘いな~って思ってしまいました。50も過ぎたら、その辺は問い詰めて白黒つけるのか、聞かずに飲み込んで割り切るか、すっきりさせてくれよ、って。
多分私だったら、気が短くて悩む労力が嫌なので、何かしらの決着をとっとと付けちゃいますね~。

夫も、優しいんだか、自己完結型なんだか、もうちょっと絵里子に対する情を示せばいいのにと思うし、娘も年齢の割りには子供っぽい感じがするし、詩織は都合の良い存在だし、詩織のパートナーのもなみも写真家としての才能があって順風満帆って感じで、なんだか全体的に「絵里子がグズグズ悩むのにちょうどいい人間関係」って感じがしてしまったのでした。

仕事をするうちに痩せてきれいになり、髪型も娘にかっこいいと言ってもらえるようなショートヘアにし、店長になって仕事に対して真摯に向き合う様になって、〈一人の人間として、とても成長した〉絵里子。
だったら、ラストは夫とよりを戻さず、対等な関係を築くことを決意してほしかったな~って思います。
住むところも仕事も手に入れて、自立もしたんだし。

(2024.10.12 読了)

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