『化物園』/恒川光太郎 〇


〈それ〉は、殺し(捕食)を好む魔物であり、犬・猫・人間、なんにでも化けるし、非常に狡猾であると言われている。
「ケシヨウ」という名称が一部では通っているものの、様々な形態で存在しているようである。
本作『化物園』で語られるいくつもの物語のあちこちに、〈それ〉らしき存在が見え隠れしているけれど、登場人物たちを直接手にかけるようなことはしていない。
恒川光太郎さんが描く、〈見たことがないのに、郷愁を覚える〉世界が繰り広げられていきます。

現代日本のような時代・昭和中期のような時代・江戸時代と思われる時代の日本らしき場所、中世の東南アジアらしき場所、どことも知れぬ隔離された場所、様々な世界が広がっています。
「ケシヨウ」が人や動物を喰らうとされる物語もあれば、人を唆すだけの物語もあり、不具の子供を集めて尊ばせる物語、子供たちを外界から隔絶しひたすら音楽を追求させた物語も。

読んでいて、〈それ〉が恐ろしいというよりも、人間が〈それ〉をどうとらえるかで全く違った印象があるな…と思っていたら、最終章で〈それ〉は一つではなくそれぞれ違った存在であり、馴染んだ状況によって性質も嗜好も違う存在になっているということがわかります。
自分たちの発生は、〈人の思念〉ではないかとそれは考えているけれど、定かではないことも。

ひそかに、そんな存在と共存してきた「人間」を描いたのが、この物語なのだと思います。
ホラー・サスペンス・ファンタジー・・・、様々なジャンルを含んで描かれた7つの物語は、どれも読み終えて少し背中が寒くなるような、けれども何故かほっとするような、不思議な感覚がありました。

〈それ〉の一つは最終章で消え去ってしまったけれど、まだきっと描かれていない〈それ〉は世界のどこかにいて、もしかしたら私の身近にいるのかもしれません。
そんな風に感じてしまいました。
しゃべる猫、或いは人間の言っていることがわかっているかのような猫がいたら、要注意かもしれませんね。

(2024.02.09 読了)

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この記事へのコメント

  • latifa

    水無月Rさん、こんにちは!
    恒川さんらしい、不思議で色々な魅力のある短編集でしたね。
    こういったタイプの恒川作品が好きです。

    だいぶ記憶が曖昧になってしまっているので、機会があったら再読したいです。
    2025年02月12日 12:52
  • 水無月・R

    latifaさん、ありがとうございます(^^)。
    恒川さんのこういう系統の作風、いいですよねぇ!
    澄み切った恐ろしさ、というものがあるように感じます。
    恐ろしいけれど、暖かくもあり、とても魅力的だと思います。
    2025年02月12日 14:28
  • todo23

    恒川さんの物語は、いつも厚い雲に覆われた場所に佇んでいるような、独特の雰囲気を持っていますよね。
    そういう雰囲気を醸し出せるだけでも、凄いなあーと思ってしまいます。
    2025年02月12日 16:24
  • 水無月・R

    todo23さん、ありがとうございます(^^)。
    「厚い雲に覆われた場所に佇んている」、すごくよくわかります。素敵な表現ですね!
    そんな味わいのある雰囲気に浸れる、恒川さんの作品は、本当に素晴らしいです。
    2025年02月14日 20:52