白い立方体が重なり、砂ぼこりが舞っている風景をバックに、黒いセーラー服姿のロボット?がポーズをとる表紙。
『バイオスフィア不動産』というタイトルだけでは、中身の想像がつきません。
周藤蓮さんは、今まで読んだことはない作家さんですが、軽く楽しく読めました!
ほぼすべての人類が、〈バイオスフィア建築〉に引きこもるこの世界は、ユートピアなのかディストピアなのか?
内部で資源的・エネルギー的に完結しているという、バイオスフィアⅢ(基本的には白い立方体)。
中に入った人は、望む限りほぼ永久にその中で生活してゆけるという。
ほぼすべての人類が、そのバイオスフィア建築に住み、ごく少数の〈外界主義者〉がコロニーを成して暮らしている。
バイオスフィアを作り出し、供給管理しているのが、後香不動産。
後香不動産のサービスコーディネーターのアレイ(閉所恐怖症のため、バイオスフィアⅢに入ることが出来ない)とそのデバイス役のサイボーグ・ユキオは、後香に入る様々なクレームに対処していく。
最初は、「全人類引きこもりとか、ディストピア小説なのかな~?」と思ってたのですが、どうも違う感じがします。
仕組みはよくわからないけど、住人の希望は何でも叶う(ただし代替であることも)バイオスフィアの中に閉じこもり、人類が衰退していく・・・という流れではなさそう。
とはいえ、直接的な交流がなければ、世代が続くことも難しいような気もするし・・・。
あと、アレイに対して「バイオスフィアⅠにいるからといって、正気だといえる時代は終わった」とか「地球に取り残されてしまった少年」という表現がされているということは、地球そのものが「バイオスフィア化」されているということなのかも・・・?
バイオスフィア建築のしくみや、現状〈社会〉がどのように構成されているかなど、はっきり書かれていないので、疑問は多々あります。
世界を席巻しているバイオスフィアを一介の民間企業が供給管理しているのは、どういうことなのか?とか。
人々が皆、個々の希望を叶えているなら、政治(とか国とか)はもう形骸化してるだろうか?とか。
その辺は、わからないけど、様々なクレームが寄せられ、対処するアレイとユキオの事情がちょっとずつ明らかになっていくのが、面白かったです。
ユキオという名前からして男性なのかと思いきや、サイボーグ体はセーラー服の女性体。しかし中の人(笑)は、戦争で体の大部分を失った中年男性(サイボーグ化された時点での年齢)。本人は「かわいい外観の方が、うまく世の中受け入れられて活動しやすい」などと嘯いています。
まあ、確かに、フルフェイスヘルメットみたいな頭部に顔文字を表示できるセーラー服のロボット、あまり威圧感がなくていいのかもしれないですね。ちなみに、ユキオは人間じゃなくて後香不動産の備品として、扱われています(笑)。
最終章でアレイは、後香不動産そのものであるという猫を企業抗争の名残から救うために、成人としてやっと持てるようになったバイオスフィアⅢを受け渡します。自分は、バイオスフィアがある世界をやはり許容できないから、と言って。
後香を見殺しにしてもよかったのに、しなかった。
今の、後香不動産がバイオスフィアを供給管理するという世界に、簡単に楔を打てる立場を手に入れるのではなく、これからも正しいと思ったことを主張する、と宣言したアレイは、潔かったなぁ・・・。
これからも、数多くのクレーム処理に、このコンビは駆けつけることになるんでしょう。ただ、続きの物語が描かれるかというと、微妙です。
親から見捨てられ、閉所恐怖症のためにバイオスフィアに入ることが出来ない「子供」が、成人した時点で終わったのですから、物語としては収まりの良い形に収まったのかもしれないので。
いくらでも続きは書けそうですが、ここで終わりなのがいいかもしれないですね。
あ、そうそう。
もし、私がバイオスフィアに入居することになったら、というのを妄想してみたのですが・・・。
読みたいだけ本を読んで、そして食べたいものを食べ、運動は大嫌いだからしない・・・そんな堕落した生活してたら、すぐに健康を損なう気がするんですが、その辺もバイオスフィアのなんかしらの仕組みで、ちゃんと生命維持ができるようになるんですかね(笑)。
あと、ずっと一人で住居に引きこもって、飽きないのかしら・・・。通信などで外と繋がることは出来るようですが。
まあ、全ての欲求は代替可能だそうなので、社会的つながりみたいなものも、なんとかなっちゃうのかもしれません(笑)。
(2025.04.04 読了)
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