『アナベル・リイ』/小池真理子 〇


これは、しんしんと怖いですねぇ。
小池真理子さんの描く、40年にも及んだ幽霊譚。
ポオの詩『アナベル・リイ』のようにひっそりと、こちらの意思は通じず、ただひたすら主人公に寄り添ってきた、その情念。

女優を夢見て上京しながら、才能及ばず酷評されたことを慰めてくれた男・飯沼と結婚した、千佳代。
飯沼の行きつけのバーのアルバイト・悦子は、千佳代の唯一と言っていい友人となる。
結婚後間もなく、千佳代は急病に倒れ、そのまま帰らぬ人となる。
悦子のバイト先のバーの主・多恵子は、かつて飯沼に心を寄せ、かつ何度かは情を交わしたこともあったが、すでに新しい恋人との関係が成立していた。
だが、悦子や多恵子の前に、千佳代の亡霊が現れる。何をするわけでもなく、俯いてひっそりと立ち尽くすその姿に、彼女たちは恐れおののき、何度もおびやかされた多恵子は、憔悴し倒れ、入院先で怯え震えながら、息を引き取ったという。
千佳代の影に慄きながらも、飯沼への気持ちを抑えられなかった悦子は、飯沼と結婚し、長く一緒に暮らした。
その間には、飯沼に執拗に執着する女性が駅で転落事故で死亡したり、飯沼が老年に差し掛かる際の激しい不倫の末相手ともども自動車事故で亡くなったりするという事件が起きていた。

それらの出来事を詳細に、憑かれたように書き綴った悦子。
書きあがったそれを、読んでいた存在は・・・。

千佳代が執着したのは、飯沼ではなかったのでしょうね。
田舎から出てきた若い女が、たった一人できた友達に執着し、自分が結婚した相手に恋心を抱いているなら、その関係を支えようとして、幾人もの障害となりうる相手を死に至らしめる。
悦子のそばに現れた千佳代は、多恵子だけの時にはなかったやや寂しげだけれど親しげな様子をしていた気がします。
「大好きな悦子が、自分の夫を想っているなら・・・」が、全ての原因なら、それは怨念ではなく情念。
40年もの情念に見守られ、怯えていた悦子が、自分と千佳代の本当の関係に気づいたからこそ最後まで記された物語。
それを愉しそうによんでいた、白くけぶるような姿の女。

千佳代の情念も怖いけれど、それを長きにわたって「きっといつも見ている」と恐怖しつつも受け入れてきた悦子も怖い。
静かに自分のそばに佇む情念の存在を、もし私だったら受け入れられたとは思えないです。

(2025.04.22 読了)

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