『墨のゆらめき』/三浦しをん ◎


楽しかった!温かい気持ちになって、ほろりとした!
やっぱり私、三浦しをんさん大好きだなぁ!!
新宿にあるこじんまりとしたホテル「三日月ホテル」のホテルマン・続力(つづき・ちから)と、三日月ホテルに筆耕士として登録している書家・遠田薫の邂逅から始まる物語、『墨のゆらめき』
時間に余裕があったのもあるけど、ぐいぐいと惹き込まれて、ニヤニヤうふうふ笑いながらあっという間に読了。

小規模ながら常連様のご贔屓もあり、着実な営業を続けている三日月ホテル。中堅ホテルマンとして働いている続(遠田にはチカと呼ばれるようになる)は、自分の仕事が好きだし「話しかけられやすい」雰囲気(特技?)を持っている。
登録している筆耕士・遠田との連絡がメールしかなかったため、直接遠田の住居兼書道教室を訪問したことから、二人の関わりが始まる。
小学生の友人への手紙、彼氏と別れたい女性の手紙、それらを二人で組んで代筆したり、なんとなく居心地がよくて時々は訪れて、書道教室の見学・遠田の書家としての仕事の見学・二人で食事をしたり、酒を飲んだりして過ごしていた。

読んでいて『まほろ駅前多田便利軒』にを思い出すな~って、感じました。
まあ、変わり者具合的には、遠田はまだ行天には及びませんが(笑)。
家族でも友人でも恋愛でもない関係、だけど一緒にいて居心地がいい関係。
そんな二人に、遠田の飼ってる猫のカネコや書道教室の小学生・三木なども加わり、時々頓狂なやり取りが挟まれたり、ほんのり温かかったり、遠田の絶妙な書の技が披露されたり、平和でほのぼのとした日々が流れていきます。

でも、平和でほのぼのとしているからこそ、「あまり自分を多く語らない遠田には、何か事情があるのでは・・・」と不穏さもそこはかとなく漂って、終盤での「遠田の過去とシャッターおろされ事件」で「あぁぁ!やっぱりそうなのか!いやでもこの二人の関係は切れてほしくないんだよ!!」と、一人で唸ってしまいました。
そんな二人がもう一度顔を合わせて、「相棒」であることを認め合った、遠田家の春の庭。
思い起こすだけで心が温まって、ふわふわと微笑みが浮かんできてしまいますね~。

しかし、チカの文章力、すごい!年齢性別問わず、本人になり切ったかのような言葉遣いや、話題選び、そしてそれをすらすらと口述する頭の回転の良さ。そして遠田の筆跡をまねする能力、書から湧き上がる雰囲気の豊かさも、素晴らしい。
二人そろって芸術的。ただし、二人の合作作品は「奇矯を装った別離文書」だったり「お小遣いの賃上げ要求書」だったりするんですが(笑)。
でも、そういう世俗?にまみれた文章だというのが、二人らしい気がして、余計にニヤニヤしちゃいますね。
文章センス、便箋選び・使う筆記具選びも、当人らしさを滲ませつつ、代書に要求される目的に沿ったもので、二人とも観察力があり感じ取ったものを、明確化させる感覚が優れてるんでしょうねぇ。
常に、ボケーっとニュアンスで生きてきてる私には、到底できないことですわ~(笑)。

とにかく、二人の会話や、子供・猫などの描写が軽妙で、読んでて楽しいし、わかりやすい。
そして、物の例えや状況説明が、クスリと笑えたりなんでやねんと脱力したり、親しみやすい。
しをんさんの作品の、こういうところ、大好きだなぁ。
もちろん、遠田の書く書が実際に見えるかのような描写も、とても素敵でしたし。

うららかな春の午後にぴったりな読書となりました。
最後の方で、チカが口にはしなかった「いつか、みんなで一緒に動物園に行って、パンダを眺めるんです」が、実現する日が来たらいいなと思います。

(2025.05.02 読了)

ブロガーさんにご許可頂いたレビューをご紹介します♪
☆おすすめです!☆

この記事へのコメント

  • latifa

    水無月Rさん、こんにちは!
    私もこれ楽しく読みました。
    やっぱりしをんさんは、こういう男子2人ものがお得意というか上手ですよねー。
    過去作品、私も頭に浮かびました。

    ところで私のブログがgooブログの閉鎖のため、hatenaブログに引越しすることになりました。
    以後、こちらの方でどうぞ宜しくお願い致します。
    https://latifaa.hatenablog.com
    2025年05月14日 07:25
  • 水無月・R

    latifaさん、ありがとうございます(^^)。
    軽妙で頓狂な会話、内心でのツッコミ、そういうところがしをんさんは上手いなぁといつも思います。
    ニヤニヤしながら読めちゃう。
    ちょっと心痛む展開があっても、登場人物たちがそれを懸命に乗り越えていく姿には、ほっとします。

    ブログお引越し、お疲れ様です。
    これからは、そちらをチェックさせていただきますね~。
    2025年05月16日 19:30