『ケチる貴方』/石田夏穂 ◎


『我が友、スミス』(未読)で芥川賞の候補となったことのある、石田夏穂さん。
自他ともに認める(息子が小さい頃、「おかーさん冷たいからお手てつながない!」と拒否られたことがある)冷え性なワタクシ、本書『ケチる貴方』は「冷え性」を扱った物語、と書評で知った途端に、〈読みたい本リスト〉入りしましたよ。
石田さんて、『我が友~』はボディビルにのめり込む女性、本書表題作は冷え性と脂肪吸引、身体に関する物語が得意な作家さんなのかしら。
ままならぬ身体との真剣なやり取りが、何故こんなにズレていくのか。面白かったです!

「ケチる貴方」「その周囲、五十八センチ」、どちらもままならぬ自分の体質との戦いを真摯に描いているのに、その真摯に向き合う様子は、一般からズレている気がする。まあ、一般的であるかどうかは、問題じゃないのだけど。

「ケチる~」の佐藤は冷え性なのを周囲にカムアウトすればいいのに・・・と思うけど、これまでも体格的に「冷え性である」ことを揶揄われたりバカにされたり信じてもらえなかったりしたんでしょうねぇ・・・。
ふとしたきっかけで、「ケチをやめて消費や自分の仕事のコツなどを提供する」ことで自分の中から熱が産生されることに気づいた佐藤が、今度はどんどん差し出すことで、脈拍すら無駄遣いして頻脈で倒れるという、結果になる。
しかし、ケチるのをやめたら冷え性が治るって・・・作中では理路整然と佐藤が納得してたけど、ファンタジーだよねぇ(笑)。
あれ?でも、私もケチですわ・・・そういえば。ということは、もしかしたら・・・?なんて思ったりして(笑)。

「その周囲~」は、脂肪吸引施術後のダウンタイムの痛みがリアルすぎて、結構引きました。そうまでして、ギリギリのラインを攻めたい主人公・S木・・・ある意味尊敬しますな。
脂肪吸引そのものと、ダウンタイムの痛みを克服する過程に依存してる感じですねぇ。
痛いから生きてる感じがするとか、そういうのは軟弱な私にはちょっと・・・理解はできるような気はするんですが、ちゃんと考えると痛いので、中途半端な理解です。
シゴデキ(仕事のできる人を指す最近の言葉ですね)なS木の「努力するというパワーの根源」が彼女の脚にあるという医者のE藤先生の言葉、すごくいいですねぇ。それを前向きに受け止め、かつ飲み屋で褒められた自分の脚に対して「血で血を洗う歴史を持つ脚」「最初から細かった脚にはない覇気が宿っている」と評価するラストが、清々しかったです。
たぶん、S木はこれからも「脂肪吸引」に依存していくんでしょうねぇ。
両親が買ったマンションを弟に譲って家賃のかかる生活になったら、経済的に大変になるから頻度は下がるでしょうけど、逆にそれが依存を継続させるのにちょうどいいかもしれません。
本当は、止めた方がいいのかもしれませんが、なんだか応援したくなりました。

書籍そのものが薄かったのもありますが、文章のテンポがよく(一文一文が簡潔で、リアルな描写)、とても読みやすかったです。
『我が友~』も、読んでみようかしら。

(2025.06.25 読了)

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