『世界でいちばん透きとおった物語』/杉井光 ◎


大御所ミステリー作家・宮内彰吾が亡くなった。
その長男から「父が最後まで取り組んでいた『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの、未発表作を探し出してほしい」と依頼された、主人公・藤坂燈真。燈真は、宮内の認知されていない息子で、母と宮内は妊娠が判明した時点で別れており、宮内とは会ったこともないし、養育費も受け取っていなかった。
そんな燈真の、作品探しミステリー。
「ネタバレ厳禁!」「紙の書籍じゃないと成立しない物語」という、やたら煽ってくる前評判にちょっと「なんだかなぁ・・・」と思いつつ、やっと図書館の予約の順番が回ってきたので、読み始めたのですが・・。
え~っと・・・、杉井光さん、すごいですね?!いやはや、とんでもない作品を書いてくれました!

図書館で受け取った時、「あれ?こんなに薄い文庫本・・・」と、がっかりとは違うものの、なんとなく違和感を覚えてしまいました。
あれだけ話題になった作品だから「すごいもの」ってイメージがあって、こんなに薄くてなんか物足りないな・・・なんて、勝手に思っちゃったんですよね。

物語自体も、一度も会ったことのない父の最後の作品を探していると、何故か家を荒らされたり、作品のありそうな場所で先を越されて原稿を焼かれてしまったり、というミステリー仕立てではあるものの、なんとなくインパクトが足りないような・・・と感じていました。
主人公・燈真が、高校卒業後は書店の週3回のバイトしかしていないこと、母が亡くなっていることなど、なんとなく世間とは一線を画して生活している様子、電子書籍は読めるのに紙の書籍は目がチカチカして読めないという特性があるにもかかわらず、母の校閲の仕事は手伝えていたことなど、「何かしら、普通とは違う特別な人」という雰囲気を醸していたので、何かあるとは思ってたんですけどねぇ。

物語の最中で、宮内が「推理小説協会の京極夏彦を訪ねた」という話を、燈真が聞きに行くというエピソードがあったにもかかわらず、物語の仕掛けには全然気がつきませんでしたねぇ。
第12章で、編集者の霧子さんが謎解きを始めた時も、最初は全然何を言おうとしているのかわからなかったのですが、「ただ一人のために、書き上げようとした」のが誰であるかの推測がついて、その人物の特性を解説し始めた途端、宮内彰吾が描きたかった『世界でいちばん透きとおった物語』の構想が一挙に見えてきて、驚愕しました。
そしてさらに、ふとページに目を凝らして、「とある可能性」に気付いてしまい、物語の流れをすっ飛ばして「全ページをパラパラとチェック」して、・・・度肝を抜かれました。正直、テーブルに本を置いて読んでいなかったら、本を取り落としていたと思います。
確かにこれは、「紙の書籍じゃないと成立しない物語」なんですねぇ。

そして、気を取り直して、ラストまで一気に読み進め、最後の「     」にも、深いため息が出ました。
いや、これは想像できていたんですけどね。
父・宮内がホスピスで「最後のページはこれだ」と言っていた、構成。
それを、燈真が物語に組み込んだ。すべてが、完全な物語になりました。

しかし・・・「この構成」という縛りで、1冊の本を書き上げるって・・・とてつもないことだなと思います。すごい・・・しか言えません。
しかも、『世界でいちばん透きとおった物語 2』が、出てるんですよね。
どういうことなんだろう・・・気になりすぎて、即図書館に予約を入れてしまいました!

物語としての仕掛けも、とてもすごかったのですが、編集者の霧子さん、宮内の3人の愛人たち、宮内の長男の松方朋晃など、サブキャラたちの個性もしっかり確立していて、読みやすかったです。

(2025.10.14 読了)

この記事へのコメント

  • 苗坊

    こんばんは^^
    いやー凄いですよね?とんでもない作品ですよね?内容的に単行本よりも文庫の方が良かったんだろうなとは思いますけど、文庫で良かったんですか?採算が合います?と、余計なことを考えてしまいました(笑)
    物語は言い方があれですが普通に良いお話で、最後も何とかなって良かったねーと思っていたのですが、あの「  」と、物語全体のカラクリを知った時は驚愕しましたよね。そんなことできるの?と驚きました。
    そして2が出ていることを私は知りませんでした!教えていただき、ありがとうございます!続編はどんなお話なのか気になりますね。
    2025年10月16日 20:08
  • 水無月・R

    苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
    本当に『世界でいちばん透きとおった物語』だったわけですよね。
    物語の二重構造というか、なんというか・・・いや本当に、すごいです。

    実はもともと本作を読もう読もうと思ってリストに入れてたのですが、続巻が出たことを知って慌てて図書館予約を入れる順番を繰り上げたのです。
    そして読了するなり、続巻の予約を(笑)。
    O市図書館で180人待ちなので、まだまだ回ってきそうにはありませんが・・・
    2025年10月16日 20:55
  • latifa

    水無月Rさん、こんにちは!
    すっかり朝晩涼しく(寒い?)なりましたね。

    これ、私も同じでした。
    え?これが話題の本?んー解らない、何か仕掛けがあるんだろうか?と、そればっかりが気になって、解った瞬間、おおお!っと。
    正直、内容よりも、そちらの方が強い印象になっています。

    続編が出たのですね、情報ありがとうございます。
    私もリクエストしてみようかなー。

    https://latifaa.hatenablog.com/entry/2024/09/13/093936
    2025年10月18日 08:22
  • 水無月・R

    latifaさん、ありがとうございます(^^)。
    この作品は、本当に仕掛けがすごいですよね。
    これで、ちゃんと物語として成立するって、どれだけの労力と時間をかけたんだろう…。
    続編、どんな物語になってるか、楽しみですね!
    2025年10月18日 17:50