『通夜女』/大山淳子 〇


就職に失敗し、引きこもりになってしまった小夜子は、弟の結婚式の帰りに道に迷い、他人の通夜に紛れ込んでしまう。
通夜の場に居心地の良さを感じた小夜子は、趣味として通夜通いを始め、『通夜女』を自称する老女と知り合う。
ファンタジーかホラー系なのかと思いきや、リアル寄りで不思議な物語でした。
大山淳子さんは初読みですが、〈猫弁シリーズ〉で書店などでよく見かける作家さんですね。

孫に手厳しいトキばあに躾けられ、型にはまって順調に大学まで進んできたはいいけれど、就職面接で「与えられた仕事を精いっぱいやりたい」と言ったら「話にならない」と言われ、目の前が真っ暗になり引きこもりになってしまった小夜子。
微妙にわかる・・・私も結構「カチカチ真面目の優等生タイプ」に近いので。ただ、小夜子よりは神経が図太いので、「ダメだったかー、じゃあ次だ、次!」って思えるので、ここまで折れ切っちゃうことはなく、「もうちょっと頑張れよ~」と感じました。まあ、そんな小夜子だからこそ、物語になるのですが。

見ず知らずの他人の通夜にそっと紛れ込み、お浄めの食事まで食べる通夜女。
葬儀場にケーキを売り込みたい、ケーキ会社の営業の若者。通夜女の連れてきた、幼い少年。通夜の場に、サクラとしての〈通夜レディ〉を派遣することを画策する女社長。
彼らと知り合い、いくつもの通夜を経て「他人の不幸の場で自分の幸福を安堵」し続けてきた小夜子を、通夜女はある日突然「この女は冷やかしできている!」と告発する。
その言葉に背を押されて、小夜子は通夜通いという不謹慎な趣味から卒業する。
そして、6年後。叔母の通夜でケーキ会社の青年と再会し、あれから自分はどうしていたかを語り、通夜女がどうなったのかを推測したりする。
そこで、小夜子は「通夜女が卒業させてくれた」ことを改めて実感し、涙する。

通夜通いは不謹慎だな~と思うし、ホントにそんなに簡単に他人の通夜に紛れ込んでバレないものかな?という疑問もありましたが、いくつもの通夜(幼い少年のものも含め)を経験し、通夜女の告発を受けたのに胸を張って退場するに至った小夜子の再生には、安心しました。
途中、小夜子が二代目通夜女になってしまうのか、それとも通常の世界に戻ってくるのか、心配になっていたので。
通夜女であることは、単なる無銭飲食者ではなく、ぬぐえない悲しみを背負って生きていくのがとても辛そうなので、そこに踏み込む器量が小夜子にはちょっと足りないかなと思ったのでした。

6年後の青年との会話に出てきた、小夜子の就職が決まって母親が泣いているのを見られないために夕食中に席を外すシーン、このお母さんはホントに偉いなと思いましたね~。娘が引きこもっても、うるさいことは言わずきちんきちんと食事を用意してやり、身の回りを世話してあげる・・・小夜子は甘え過ぎだな~とずっと思ってたので、お母さんが安心できる状況になってよかったですよ、本当に。

冒頭の結婚式をした(初恋を貫いた)弟があっさり離婚(子供もいるのに)したことも描かれていて、ちょっと笑ってしまいました。もちろん、当事者たちにとっては笑い事ではないとは思うのですが、人は変わっていくんだよな~と。小夜子も変わるし、弟も変わる、それでいいんだなと。人間は、信用ならない。それでいいんじゃないかなと思いました。適当過ぎるかしら(笑)。

(2025.12.22 読了)

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