2123年、という記述から始まる、とある女性の記録。
ひらがなが多く読点が少なく、少々つたない話し言葉の文章は、ふわふわと漂いながら何気ない調子で進んでいきます。
間宮改衣さんのデビュー作、『ここはすべての夜明けまえ』は、100年まえに〈ゆう合手じゅつ〉なる身体の機械化処置を受けた25歳の女性の記録を、平坦に雄弁に語っていく。
ひらがなを多用し、読点が少なく、ふわふわと漂うような平易な文章で、100年前に〈ゆう合手じゅつ〉なる身体の機械化処置を受けた女性の記録は進んでいきます。
彼女の名前は表記されず、地球環境が劣悪化していく中で移り行く家族の物語を語り続ける。
彼女の名前だけが空白で記されているのには、どんな意味があったんでしょう。
彼女本人の記憶から、自分の名前だけを消去してしまったのか。それとも、彼女に名前を与えないことで、読者に彼女のイメージを固定化させないという意図があったのか。読者の共感(彼女への一体化)あるいは、逆に切り離しを狙ったのか。
どれも、アリだな・・・と思えました。
私は「 」という空白に、何故か「しろ」というひらがなの名前を当ててました。表紙に真っ白な女性のイラストが描かれてたのに引っ張られたのと、ひらがなを多用したページに空白を多く感じたので。
しろさんの物語は、恋人となった甥との穏やかな日常や、汚染された環境を淡々と描いていて、これはディストピアSFだなぁと感じました。
他に、ゆう合手じゅつを受けた人間は、いなかったんですかね。
最後に彼女だけが地球に残って・・・という展開だったけど、そこだけちょっと気になりました。
25歳でその手術を受けた彼女は、ずっと老いず就寝も栄養補給もいらない体で、家族を見送ってきた。
最後に辿り着いたコミュニティで、「自分は甥を愛してはいなかった」「彼の愛情をコントロールして搾取するべきではなかった」という告白がなされた瞬間は、驚きとその理不尽さに怒りが沸いたのですが。
そのあとだんだんと、彼女の生い立ちなどを考えたら、私が許す許さないの問題ではなく、彼女が自分のしたことを見つめ続けるという決意で終わったことを昇華していくしかないのかな、と思えました。
最初から少なかった漢字が、どんどんなくなっていき、最後には平仮名だけでつづられていく様子に、胸が痛くなりました。
『アルジャーノンに花束を』みたいだったな・・・って。
多分、もう少ししたら彼女の身体は上手く動かなくなり、もしかすると脳と機械の接続もだんだんバグが増えてきて、〈見るはずのない夢〉を見ながら、荒野のどこかでいずれ朽ち果てていくのでしょう。
悲しいけれど、どこか美しくてでもせつなくて、彼女の見る夢が温かいものであって欲しいな、と願ってしまいました。
(2026.02.13 読了)
この記事へのコメント
todo23
http://blog.livedoor.jp/todo_23-br/archives/36858344.html
水無月・R
ふわふわと語られる彼女の思い出の裏側では、父親からの虐待、兄の自殺措置、自分と甥の関係を知った次姉の衝動的な自死、などが渦巻いていたのに、それでも彼女が穏やかに自分や家族の人生を見つめていく様子に、強さを感じました。
不思議な物語でしたね。