『人間標本』/湊かなえ ◎


はぁ・・・湊かなえさんらしい、「うわぁ・・・そう来たか・・あ~、うん・・・」とズッシリ来る作品でした。
私は、出来るだけ前情報ナシで読みたい派なのですが、『人間標本』というタイトルの毒々しさ、アマプラ映像化の予告編は嫌でも目に入ってしまい、良くも悪くも期待値の高い状態で読み始めました。

物語の語り手、榊史郎は蝶に関する研究で著名な大学教授。
幼少期に知り合った少女・留美が「色の魔術師」として世界的に評価される画家となり、交流が再開する。
その留美が、かつて史郎の住んでいた山荘を買い取って、そこで少年たちを集めて「自分の後継者を選ぶ」合宿を行うという。その合宿に史郎の息子・至(いたる)も招待されるのだが、合宿開始直後に留美は病に倒れ、合宿は解消。
集められた少年たちに「蝶の姿」を見た史郎は、殺害した彼らを素材とした〈人間標本〉を作って山中に設置し写真を撮るという、悍ましい行為を実行する。息子まで、手にかけて・・・。

ここまで読んで、「なんか、フツーの猟奇殺人の記録だよなぁ。物足りない・・・」と思っていたのですが、そのあとに続く、至の「夏休み自由研究「人間標本」」に読み進めて、「うわぁ‥マジか、中学2年生が?ギフトの目を開かれたからって・・・そんな・・・」と鬱々とした気分になったのですが、違和感も覚えたのでした。

そして更に史郎の「独房にて」の独白。至の行いを知って、至に手をかけるまでの苦悩。でも‥やっぱり何か違うと感じたのですが、その「何が違うのか」がハッキリせず、モヤモヤしたままでした。

「面会室にて」の留美の娘・杏奈との面会で、更に物語の真相は反転していきます。少年たちを標本にしたのは、史郎でもなく至の単独犯行でもなく、杏奈の独自犯行に至るが協力せざるを得なかったという事実が、彼女から語られる。
だが、史郎は気づいてしまうのだ。〈人間標本〉を作るための準備が、杏奈には無理だったことに。
追求された杏奈は、とうとう告白する。本当の首謀者の名を。もともとは、彼女がそれを作るつもりだったことを。
そして、それが出来なくなった時、娘に「自分の後継者指名」を餌に実行するようにそそのかしたのだと。

絶望の底に叩き落された史郎。
自分が息子を心底から信頼できていなかった故に、自分の息子を殺して標本として作品の写真まで撮って晒し者にしてしまったこと。
矛盾や違和感を覚えながらも、追及することをしなかったこと。
そして、首謀者の一番最初のきっかけを作ったのは、小学1年生の自分が作った蝶の標本と絵だったこと。
全てが、悪い方へ悪い方へと嚙み合ってしまい、引き起こされた悲劇。

ああ・・本当に、湊さんって、絶望をさらに深い淵に設定して、登場人物を叩き落して物語を〆るのが、巧妙すぎるんですよ。
切なくて、苦しくて、救いようがなくて。
擬態に擬態を重ねて、主人公が思っていたのとは全く違う真実が見えてくる。擬態に気付くことが出来なかった主人公を、傷つけるだけ傷つけて。
そして、最後に絵の下に残された至のメッセージ、「お父さん、僕を標本にしてください」
至は、父がどうするかまで分かっていたというのか。
あまりにも痛切なラストに、ため息をつきながら本を閉じました。

芸術とは、ギフトとは・・・自分は凡人でよかったと思いました。

(2026.03.27 読了)

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この記事へのコメント

  • latifa

    水無月Rさん、こんにちは!
    これ読まれたのですね・・・・
    いやーなんというか、狂気というか、、、
    芸術といっても、これはちょっとね・・。

    既に映像化で画像も出回っているので、読みながらその俳優さんが頭に浮かんだりされたかな・・・。
    2026年03月31日 08:09
  • 水無月・R

    latifaさん、ありがとうございます(^^)。
    芸術を極めたいという執着と狂気が、こんな事件を起こしてしまったのですよねぇ。恐ろしい。
    それを宮沢りえさんが演じてたというのは、すごく合ってると思いました。
    宮沢りえさんて、普通にキレイな中年女性に見えるけど、一皮むけばサイコパス、みたいな演技がうますぎますもんね・・・。
    2026年03月31日 09:31