『殺戮にいたる病』/我孫子武丸 〇

うん、実は〈叙述トリック〉ってことは、知ってて読んだんですよね。な・の・に!まるっと騙されました・・・最後の最後まで!!いや、最初の方で「んん?なんかこれおかしくないか?」って思ったんですけどね、殺人描写のグロさに目眩まされちゃって、そっちに気が行ってしまって(グロいのはあんまり得意じゃないんで)。我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』、新聞だったか雑誌だったかの書評で〈叙述トリックの至宝〉とかなんとか、紹介されててですね、「じゃあ、騙されるわけにはいかないわな(笑)」ってリスト入りしたんですよ。それがまあ、全くもって、まるっと騙されました。(まあ、水無月・Rの脳内処理能力じゃそうなっても仕方ないのかも) 先ほども書きましたが、なんかおかしいなぁ、違和感あるなぁ・・・とは、思ったんですよ。途中々々にも「なんか表現が古臭いなぁ」と思わなくもなかったのですけどね。だけど、まさか、ねぇ。犯人が女性を見付けてあっさりと犯行に及び、それに関して勝手に自分で美化した思いを縷々、吐露してるのを読んでると、すっかり騙されちゃうというか、うぇぇ~って感じてしまって誤魔化されちゃうんですよねぇ。いや、ホントもう、完敗。 次々に女性を殺してその遺体を損壊した上に、持ち帰って更に凌辱するという、犯人・蒲生稔。息子の挙動がおかしいことから、連続殺人犯は息子なのではないか、と疑う母・蒲生雅子。知人が連続殺人の被害者となり、その妹と共に独自捜査を始めてしまう退職刑事・樋口。この三人の視点で、犯行とその背景が語られていく。 稔…

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『火の中の竜 ~ネットコンサルト「さらまんどら」の炎上事件簿~』/汀こもるの 〇

車椅子の美青年所長・オメガ率いる、ネットよろず相談所「さらまんどら」。彼らの得意な分野は「炎上案件」。店のサイトが炎上してしまったパソコン教室の生徒を連れて行った「先生」こと「ぼく」も、その仲間に加わることになり、事件にかかわっていくことに・・・。汀こもるのさん、初読み作家さんです。勢いのある展開で、大変読みやすかったです。『火の中の竜 ~ネットコンサルト「さらまんどら」の炎上事件簿~』、今時感満載でした。ネットってなんとなく使ってるけど、便利な分落とし穴もあるんだなぁと、今更ながら感じました。 メディアワークス文庫ですから、まあがっつりラノベ調。イケメン二人の表紙も「不敵な笑みを浮かべるインテリヤクザ風」と「真面目そうな優男」という、まあグイグイ引っ張りますね(笑)。このインテリヤクザ風が所長のオメガ。筋力がだんだん落ちて最終的には心臓などの不随意筋も動かなくなるという難病に侵されている、薄倖の美青年・・・と言いたいところだけど、まあ口を開けば「炎上メシウマ」「私は失うもののない年金生活者だから」とネットトラブルに突入していく、口数多く車椅子で外出もこなすキャラ立ち。そのオメガと同居する小学生男子・リセと女子高生・サクラ(二人とも事情持ちで引きこもり)、本作ではあまり活躍のなかったコミュ障の校閲(成人女性)、マリー(ガタイの良い成人男性なんだけど…)も「さらまんどら」のメンバー。それぞれ、かなりの個性がある人々ですな。そして本作で新規加入?した先生だけど、最初の方でサラッととんでもないヒントを…

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『室町繚乱 ~義満と世阿弥と吉野の姫君~』/阿部暁子 ◎

室町時代の知識があまりないまま読み始めたのですが、阿部暁子さん、大変面白かったです。 世間知らずだった南朝の皇女・透子の成長を描いた『室町繚乱 ~義満と世阿弥と吉野の姫君~』、相争う南北朝及び幕府という複雑な政治事情を背負った若者たちの苦悩と決意を咲き乱れさせる、力強い物語でした。 吉野の山奥の南朝から、北朝に寝返った楠木正儀を連れ戻すため、姿を少年に変え京に潜入した皇女・透子は、人買いに攫われたところを美少女と若武者に救われる。 ところがこの二人、実は時の将軍・義満とその小姓である猿楽師の鬼夜叉(のちの世阿弥)。あっさり正体を知られてしまった透子は、椿丸として義満の小姓を務めることになる。 北朝憎し、幕府憎し、おのが南朝こそ正統であると凝り固まっていた透子だが、義満・鬼夜叉と共に行動するうちに世の中を知り、争い合うことで国と民草が疲弊していく事実を知っていく・・・。 最初のうちは、透子の貴い身分ゆえの思慮の足りなさや世間を知らない言動に、ちょっとイライラしてたのですが、現状を知り、亡き父の思いを知り、世の平和を分かち合おうと思うに至る成長を読むにつれ、清々しい気持ちになって来ました。 鬼夜叉に対する同僚たちの嫌がらせに対してまっすぐに怒りを示したり、鬼夜叉の弟・四郎とのやり取りが微笑ましかったり、育ちの良さからの美しいほどの真っ直ぐさと心優しさも持っているんですね。 そんな透子が、自分を取り戻すという名目で伯父宮・宗良親王が起こした「義満拉致」の現場に乗り込み、宗良親王…

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『抱卵』/堀真潮 ◎

スイートなものからダークなものまで、様々な掌編が詰まった一冊。本作『抱卵』でデビューの堀真潮さんは、表題作「抱卵」で第一回「ショートショート大賞」を受賞。24作品、それぞれに違った味わいがあり、楽しめました! まず、一番最初の作品「井戸の住人」で、ぐっと掴まれました。井戸に引きこもってる(笑)幽霊とその家の夫婦と霊媒師のやり取りが、可笑しすぎ。でもきちんとほっこりする終わり方で、面白かったです。 「チョキ1グランプリ」が一番好きですなぁ。少年少女の初々しさが素敵。チョキ(ピース)の美しさを競うコンテスト、という設定が面白いし、代表の少女を温かく応援する地域の人たちも優しくて。好きな人のチョキが、一番素敵に見えるものなんですよね~♪ 「本の一生」も、本好きにはたまらない展開ながら、最後のひねりにはニヤリとしてしまいましたね~。まさかの〈繁殖〉とは(笑)。中盤で「本」がでろでろになった時は、ビクビクしましたけど。 表題作「抱卵」も切なく、幻想的で美しかったです。戦場で死んだ恋人の胸にあった4つの卵。その卵の味と、恋人の思いと、4つ目の卵を抱いて生き続ける女性。そして、彼女に差し伸べられた手と4つ目の卵の結末。スッと胸が晴れるような気持ちになりました。 「瓶の博物館」も面白かったです。私もこういう博物館に、行ってみたいですねぇ。それぞれの瓶に見合った音が聞こえるなんて、素敵ですもの。とっておきのワインの瓶が、高音のアリアで・・・そして、茫然とワイン臭くなって立ち尽くす、というラストも、私的には…

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『タンゴ・イン・ザ・ダーク』/サクラ・ヒロ △

いやぁ・・・久し振りに読了後、「え~と、だから、何?」って思ってしまいました。サクラ・ヒロさん好きな方、ごめんなさい。私には、このカオスな世界観が理解できませんでした。真の暗闇の地下室で音楽セッションする夫婦を描いた『タンゴ・イン・ザ・ダーク』、何がどうしてこうなって、そしてどういうラストになったのか・・・。 ある日突然、妻が「顔にやけどをした。病院に行くほどではない。でも見られるのが恥ずかしい。」と言って、寝室に引き籠ってしまう。互いに自立している夫婦であるためしばらくの間はそれで何とかなっていたが、妻は寝室から出てくるどころか、キッチンやシャワーまで整っている地下室に移動してしまい、夫の夕食は夫のいない間に用意できてはいるけれど、ずっと夫婦は顔を合わせることがないまま日々が過ぎていく。地下室に籠る妻は暗闇の中でなら会うと言い、地下から出てくる条件として、自分がプログラムした「オルフェウス」というゲームの上位者ランキングに入ったら、という。市役所勤めの夫は「オルフェウス」をプレイし続けるが、全くランキング入りできないどころか、日常生活に支障まで出始める。「オルフェウス」から、地獄の門番を音楽で手懐け妻を連れ帰ろうとするエピソードを思い出した夫は、地下を訪れてフルートを演奏しようと思い立ち、練習に励む。更に日常生活(彼の社会性)は破綻していく。真っ暗な地下室で、夫はフルートで妻はギターでセッションし、演奏を重ね技術向上するにつれ、夫は不可思議な体験をしていく。 冥界脱出譚、妻は双子で名前も同じ…

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『ずぼらな青木さんの冷えとり毎日』/青木美詠子 〇

私、かなりの冷え性でございます。 冬は、靴下なくして眠れない、基本衣類はタートルネック、タイツと靴下とズボンの重ね履きがデフォルト、夏だって、スーパーの食品売り場に行くなら長袖カーディガンが手放せない(棚からの冷気に負ける)。 そんな私が『ずぼらな青木さんの冷えとり毎日』というタイトルを発見したら、読むしかないですよ、ハイ。 ずぼらでもOKなんですね?よろんで~♪って感じでした(笑)。 著者・青木美詠子さんが、「冷え取り」と付き合った10年を書き綴った、実用書。 イラストが沢山、文字数も少なくて、1日で読めちゃいました(笑)。 ゆる~く無理せず、自分にできることを続ける…てのが、極意のようです。 基本は「絹とその他天然素材の靴下を、交互に4枚以上重ね履き」、「足元温めて上半身は薄着」、「半身浴」、「食べ過ぎず、体を温める食材を」って感じでしょうか。 まあ、割と普通というか、最近はよく知られてるようなことが多いですね。 改めて、まとめて読んだって感はあります。 やれそうなことを、ちょっとやってみようかな・・・・と思いました。 つま先立ちとか、食べ過ぎないとか(おいおい)、温める食べ物とか、ヨガもどきとか。 ただねぇ、・・・正直なこと言っちゃっていいですか? この本、私には、難しいことがたくさんあります。 半身浴で1時間お風呂とか無理。夏でも肩までドボンと浸かりたいタイプなんです、私。 チョコやバターを止めるのも、難しいなぁ。 そして、たぶんこの本の一番のメ…

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『ウインドアイ』/ブライアン・エブソン △

海外作品って、どうしてこんなに難しいんだろう…。私が無教養だから?それとも苦手意識から構えてしまってるのかしら・・・(^^;)。書評で興味を持ったはずのブライアン・エブソンさんの『ウインドアイ』、全然響かなかった…。 ごくごく短い物語が25もあったのだけど、読んでて眠くなってしまうぐらい、迂遠というか入り込めないというか・・・。時折、ついていける掌編に出会えることもあるのだけど、それでも完全に理解できたとは全くもって言えないという、ね。 どの物語も、ぎくしゃくとしていて沈鬱で、読んでいると悪循環というか同じところをぐるぐる回ってる停滞感が強烈。回っても回っても、どこにも行き着けない閉塞感は、どんどん狭まってくる壁のよう。読んでいて、息が詰まる。たぶんそれは、各編の語り手がストレスを感じているのに、自分をだましだまし、平穏を装おうとして、装いきれてないところが、ありありとわかってしまうからなのだと思いました。そして、私も「自分をだましだまし」日常を送ってることを、痛感させられるから。 読んでも読んでもたどり着けない、終着点。私が「現実」と思っているのは、本当に「現実」?たくさん描かれる物語は、もしかして別の並行世界の〈私〉の物語ではないか?と疑ってしまう微妙な既視感。いやいや、こんな経験はしたことはないし、したいとも思ってない。じゃあ、こんな夢を見たことがあるのかも。思い出したくもないけど。 失った何かを探し、探しながらまた別のものを失い、そして・・・何を失ったかも忘れてしまうような物語たち…

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『臣女』/吉村萬壱 〇

いやあ・・・、感想、とっても難しいんですけど。巨大化しつつある妻の介護をしつつ、結局悪循環の末に逃亡・・・なんて物語、予想通り過ぎるのに、それでもグイグイ読まされちゃったんですもん。吉村萬壱さんという方は、初めて読みました。って、芥川賞とった作家さんなんですね!失礼いたしました・・・。巨大化する妻を「巨女」と書こうとして『臣女』と書き間違えた主人公ですが、「おみおんな」という音は妙に呪文じみてる感じがします。 高校の非常勤講師をしながら、著作活動(でも売れてない)をしている主人公は、読者である女と情事を繰り返していた。それがきっかけだったのか、母との嫁姑問題がもともとの温床だったのか、ある日から妻の巨大化が始まる。妻の体はあちこちが変形し痛みを伴い、意識も混濁したりはっきりしたり、マシな状態と不調を行き来しつつ、少しずつ巨大化する。大きくなれば食べる量も増え、糞尿の量も増えるのでその始末に追われ、臭いと文句を言いに来る近所の老人をいなそうとするもしつこく付き纏われ、同じ高校に赴任してきた同僚講師にもいろいろと絡まれる。妻は病院には行かないと言い、夫の介護は果てしなく続く。勿論、家計を圧迫する食費、糞尿や体液の処理に伴う匂いのひどさ、近隣や同僚の詮索など、主人公を悩ませることは多々あるのだけど、どうすることもできないまま悪循環に陥っていく姿を見るにつけ、もどかしくなる。 とはいえ、当局(?)に妻を渡すことは出来まい。病院に連れて行くなら、初期に行くべきだった。放置して、問題を先送りにし、介護疲れ…

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『代書屋ミクラ すごろく巡礼』/松崎有理 〇

心理学教室の教授の依頼で、研究室の助教(儚げ美人)を探しに辺路島にたどり着いた、論文代筆業の青年・ミクラ。 前作『代書屋ミクラ』では、数多の論文代筆稼業を請け負うたび、恋をして失恋・・・を繰り返す、まことに〈惜しい〉日々を送っていた彼が、今度は一つの恋のために旅に出ます。 松崎有理さんの『代書屋ミクラ すごろく巡礼』、〈惜しい青年・ミクラ〉の幸せ探しの巡礼の旅の顛末は。 島を巡るお遍路が、「人間すごろく」として祭事になったこの島のすごろく祭りのゴールに、助教が待ち受けると信じて駒となり、島を巡り始めたミクラは、めぐり合う島の人たちや競争仲間の駒さんたちとの交流しながら、「幸せとは何か」を追い求めていきます。 すごろく祭りの勝者が賭けの対象になるため、島の人々は「駒さん」たちの動向に興味津々。勝てそうな駒さんには「相」があるとして、飲食物や情報の「おふるまい」をしてくれる。島の人々との交流でどんどん島や祭に馴染んでいくミクラの姿を応援しながら読んでました。 島の風習や文化も面白いし、島の人々が「頑張ってる駒さん」たちを優しい目で応援してることや、「幸せになるための方法の流布」に関して対立している白うさぎ団(青年チーム?)と黒猫団(中年チーム?)の子供みたいな対立のあれこれも楽しかったです。 すごろく初心者のミクラに最初に声をかけてくれた「代参屋」。何度も優勝経験があり、すごろく祭りや島についていろいろ教えてくれる心強い先達(と言ってもミクラより若い)。 白うさぎ団の青年たち(複…

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『枝付き干し葡萄とワイングラス』/椰月美智子 〇

夫婦の日常の機微を描いた、短編集。夫婦関係の破綻を描いたものもあるというのに、何故か淡々と進む物語に「結婚ってこんな感じよね…」と、ちょっと諦念を感じてしまいました。あっさりとした文体で描かれる『枝付き干し葡萄とワイングラス』、するすると読みながらもちょっと身につまされることもあり、椰月美智子さんという作家さんの怖さを見た気がします。 冒頭で「日常の機微」と書きましたが、夫婦ってそれぞれですよねぇ。どの物語に出てくる夫婦にも、共感する部分あり全く違う面あり、自分を顧みてモヤモヤしました・・・。 とりあえず、表題の「枝付き干し葡萄とワイングラス」の夫は、面倒ごと後回し過ぎでぶん殴ってやりたかったです。しかも、誠実ぶってるんだか馬鹿正直なんだか、「あの娘と11年過ごしてみないと比べられない」だの「きみの好きにしていいんだよ」だの・・・、どの口が言うか!とほっぺた抓りあげてやりたかったですな。なのに、なぜかその晩は〈そうなるべくセックスをした〉・・・?え?なんで?そういうもの?ちょっとここは理解できなかったです・・・。 「甘えび」の夫婦喧嘩や「どじょう」の離婚届け直前の夫婦の様子は、なんだか淡々としてるのにキリキリしました。結婚って…なんでしょうねぇ。私も結婚して20年は経つのですが、未だによくわかりません(笑)。 結婚話とちょっと外れる「プールサイド小景」、視点がぽんぽん変わっていくので「いったい誰の話で、どういうことなんだ?」と読者としての自分が迷走してたんですが、最後の最後に明かされる視点…

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