『人外境ロマンス』/北山猛邦 ◎

『人外境ロマンス』なんていう、不穏そうなタイトルとは裏腹にさわやかな水色を基調としたきれいな表紙。物語も、人外と人とのロマンスを可愛らしく描いたもので、気持ちよくどんどん読めました!北村猛邦さんは、初めて読んだんですけど、いいですねぇ。奥付の紹介では本格トリックのミステリを書く方のようですが…こういう作風の作品、他にもあるかしら、読んでみたいです。 いやもう、とにかく可愛いんですよ~。物語の最初の方は、割と不安が漂ってくるような展開なんだけど、だんだん「あ~、やっぱりそうか~」ってなって、ラストにほっこりするという。そうならない物語もありましたけど、基本的に安心して読めました。人外っていうと、妖怪とか魔物とかそういうインパクトの強いどっちかというと、人と対立する存在を想像してしまったので、そこは予想を裏切られたんですけど、よかったです! 「かわいい狙撃手」大学のエレベーターで見かけた素敵なあの人は、屋上で何をしようとしてるの?「つめたい転校生」隣のクラスの転校生に、見覚えがあるのだけど・・・。「うるさい双子」彼を喪った私は、リゾートバイトをしに行った旅館で、夢を見るようになる。「いとしいくねくね」祖父の住む村で出会った女の子。彼女を見た人たちは次々と不審死を遂げ。「はかない薔薇」殺人現場にあった薔薇の鉢は、犯行を見ていた?「ちいさいピアニスト」村はずれの洋館に出入りする男性と、森に棲む少女。 「うるさい双子」の双子の名前が「ハル」と「シオネ」。結構なヒントですよねぇ。名前が分かった途端、この…

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『京大芸人式日本史』/菅広文 ◎

~~日本史は物語のように読めば絶対に忘れない ―― ロザン 宇治原史規~~(帯より引用) この宇治原さんの勉強法を、〈菅さんがタイムマシンに乗って日本の歴史上のいろんな時・場所を訪れてインタビューする〉という物語?にした『京大芸人式日本史』。『京大芸人』に引き続き、菅広文さんの宇治原愛が炸裂しています(笑)。 物語?は、菅さんが出来心でセンター入試の問題をざっくり読んでしまったことから始まる。 全然解けないことに、ショックを受けた菅さんは、かつて宇治原さんが~~「日本史の教科書は物語のように読めば絶対に忘れない」~~(本文より引用)と言っていたことを思い出し、本屋で買った教科書を持って、宇治原さんのところに押しかける。 テンション低めに語り出した宇治原さんにツッコミを入れつつ、物語の菅さんはタイムマシンに乗り込む。 ここから、菅さんの大冒険(笑)が始まるんだけど、ちゃんと歴史の流れは踏まえてるので、笑いながらもちゃんと日本史のキモが頭に入ってきます。 そして、時々差し挟まれる「士農工商漫談」や「四民平等漫談」、「歴史上の人物とのクイズ大会」などがもう、秀逸(笑)。賢い人たちって、どの時代でもクイズ好きっていうか、クイズになると我を忘れちゃう!というのが、リアリティがあってホントに笑えます。 クイズとなるとボケもツッコミも忘れる宇治原さんと、歴史上の人物(含・宇治原さんのおじいちゃん)の丁々発止のやり取りの末に、何故か回答権を得てしまった菅さんが答えをボケるてのに、誰もそれを拾…

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『京大芸人』/菅広文 ◎

高学歴芸人コンビ・ロザン。実は結構好きです。大阪ガスのCMとか、ホントほのぼのしてて(笑)。で、宇治原さんが京大卒なのは、けっこう知られてる事実ですが、相方の菅広文さんだって、大阪府立大ですよ。ホント高学歴コンビですなぁ。菅さん曰く〈高性能勉強ロボ〉な宇治原さんの京大合格計画&芸人として出発するまでを描いた『京大芸人』、大変読みやすかったです。菅さん、文章上手いわ~。あちこちで笑いながら、ぐいぐい読めました。 我が家には高2男子&中2男子がいるんですが、もしこの子たちが「芸人になる」とか言い出したら、困るよねぇ、私(笑)。だから、ニヤニヤしながら読んでても、ふと親目線になった時に愕然としちゃうんですよね。「えぇぇぇ!!こんなに勉強して、いわゆる旧帝大に入って、それで「芸人」だなんて・・・!こ、この子ら、アホや・・・高学歴がもったいないわ・・・」って。もちろん、ロザンのお二人は成功したからいいんですけど。ただ学歴が高いだけじゃなく、芸人を志す意志の強さや、お勉強だけでない頭の回転の良さでのネタの上手さ、人柄の良さ、全部ひっくるめての「ロザン」なんだなぁと、思いました。 とにかく菅さんが、宇治原さん大好きなのがよくわかりましたね(笑)。絶大なコンビ愛です(笑)。二人が「芸人になるために」どんな戦い(笑)をしていったかというのが、ところどころに差し挟まれるんだけど、これがもう愛に満ちてて、たまりません。菅さんが1年間浪人してしまっても、まったく「芸人になる」という目標が衰えることなく宇治原さんの中で…

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『虎と月』/柳広司 ○

中島敦 『山月記』。高校の国語の教科書に載ってた短編。本書著者柳広司さんも、高校生の時に出会った作品である、と「あとがき」に書いてましたね。膨れ上がる自尊心に押しつぶされて、虎になった李徴。思春期特有の「生き辛さ」をいまだ引きずり、非凡の才に憧れていた高校生の私は、その李徴の境遇に共感とも憧れともつかない、強い感情を覚えたものです。・・・なんか、中二病っぽいですな、今考えると(笑)。『虎と月』はその『山月記』を、ヤングアダルト向けのミステリーとして描いた物語です。 主人公は、李徴の息子である。十年前父親が失踪し、虎になったその父と遭遇したという手紙を、袁傪という役人から受け取っている。ある日、はたと「自分も虎になるのではないか」という疑念にかられ、その答えを得るために、袁傪氏を訪ねる旅に出る。都・長安に袁傪氏はおらず、所在も明かせないといわれ、袁傪氏が父に出会ったという地方の村を目指す。当の村で父の話をすると、なんだか妙な反応が返ってきて…。村に徴兵役人が現れ、徴兵の騒ぎに巻き込まれた僕は、「父がどうして虎になったか」を知ることになる。 なるほどですねぇ。軽めのミステリに仕立て、14歳の「僕」が父が『虎』になった理由を知る過程で、深く思慮を持つようになり、広い世の中のことを知り、考え、成長してゆく。もともと父親は若干二十歳で科挙に合格するような秀才、「僕」も頭はいいのだ。物語の終わりに村を去った「僕」は、一匹の猛虎と遭遇する。虎は二声三声咆哮し、元の叢に躍り入り、再びその姿を見なかった。・・・…

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『世界から猫が消えたなら』/川村元気 ○

高校生の長男が、「勉強サイトかなんかの懸賞で当たったけど読まないから」(←読めよ!)と言って私にくれた本作、『世界から猫が消えたなら』。ライトな文体、あっさりとサクサク進む展開、なるほど高校生にも読みやすいんじゃないかな(^^;)。私的には川村元気さんといえば、映画『電車男』のプロデューサーって認識なんですが、情報古すぎ(笑)。調べたら、東宝のいろんなヒット映画のプロデュースをやってらっしゃる方なんですね。 脳腫瘍で余命いくばくもないと宣告された主人公・僕。帰宅すると、自分と全く同じ見た目(ただし服装だけは季節外れのアロハ&短パン&サングラス)の悪魔がいて、「世界から一つものを消すと一日延命しますよ」と持ち掛けてきた。生きたいと思う僕は悪魔と契約し、翌日から電話が、映画が、時計が、世界から消えていく。案外に何かがなくなっても世界は回り続けるが、4日目に「猫」を消しましょうと持ち掛けられ、僕は逡巡する…。 世界から消えていったものは、なくても何とかなるものだったけど、それでもそれが「ない」と認識している〈僕〉だけは、失ったものの大切さ、それにまつわる思い出、様々な感情を揺らしながらそれでも、自分が生きながらえることを取る。まあ、でも私だってそうするよねぇ。正直、そのうち自分は死んじゃう訳で、何かがなくなっても困らないし(←おい)。 そんな僕でも、母親との思い出が多く、自分でも思い入れが深い「猫」(現在の飼い猫の名はキャベツ)を消すという悪魔・アロハの提案にはすぐ頷けない。母の死の直前の旅行の思…

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『オーダーメイド殺人クラブ』/辻村深月 ◎

なんか、ここのところ続けて〈イタイ〉物語を読んでる気がするなぁ(笑)。辻村深月さんの、痛痒い中学生物語、『オーダーメイド殺人クラブ』。イタいイタいと連呼してますが、身に覚えがありすぎなイタさなんですよね~(^^;)。いや、殺したり殺されたりしたかったわけではないですけど、それでも、参っちゃうなぁ・・・。 クラスの目立つ子グループ内で外したり外されたり、息苦しい日々を送る中学2年の主人公・小林アン。ある日、クラスの男子・徳川勝利が河原で何かを執拗に蹴っているのを見かけ、それが何かを確認しに行ってしまう。ビニール袋の中のどろどろとした何か・・・、いわゆる〈犯罪少年A候補〉みたいなその行動に、心惹かれてしまうアンは、徳川に「私を殺して、少年Aになってくれない?」と申し出る。『悲劇の記憶』と名付けたノートに、殺人の方法や死体遺棄の状況などを検討し書き込んでいく二人。その間アンは、ちょっとした行き違いなどから、どんどん教室内での立場をなくしていく。「事件」決行の夜、遅れてきた徳川はアンにある事実を告げる。数年がたち、大学へ進学上京するアンのもとに、徳川は『悲劇の記憶』のノートを差し出す。 いやぁ、ホント、イタイね。「自分は特別なんだ」「特別にならなくては」と、もがけばもがくほど、その痛々しさはあらわになる。中学の頃って、なんであんなに世界が狭くて、そしてその狭い世界の中で自分を追い詰めまくって、生き辛い思いばっかりしてたんだろうなぁ、なんてことを思い出したりしてしまう。耽美なものに歪んだ憧れを持ち、グロ…

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『子どもたちは夜と遊ぶ』(上)(下)/辻村深月 ○

なんていうかねぇ、・・・非常に後味が悪いです・・・。だけど、気になって気になって、下巻なんかもう、すごい勢いで読んじゃったんですよねぇ。辻村深月さん、この展開はちょっと…救いがなさすぎると思うのですが…。『子どもたちは夜と遊ぶ』という、ファンタジックなタイトルとは裏腹に、いくつもの殺人事件が描かれるこの作品。ううむ・・・感想がとても難しいなぁ。どうしましょう・・・(^^;)。 アメリカの名門大への留学を賭けた論文のコンクールの合否発表直前から物語は始まる。D大学の有力候補、狐塚孝太と木村浅葱は同じ研究室に所属している。この二人のどちらかが選ばれるだろうと思われていたこの賞の最優秀賞を勝ち取ったのは、『i』という匿名の論文であった。iはC大学の架空の学籍アドレスから論文を投稿した後、受賞の名乗り出もせず、コンクールはなし崩しに立ち消えとなる。孝太・浅葱・石澤・月子・真紀・紫乃・秋月教授・・・。彼らを外側からだんだんに包囲していく、「i」と「θ」の殺人ゲーム。 iとθの関係や、ゲームの仕組みや意図はたぶん結構早めに気づいたんですが、月子の秘密は明かされるまで、なんか変だなという気はうっすらとだけしてたんですが、そのままスルーしてて。「えっぇぇぇぇ~、す、ずるいよ~」ってなりました。これは、うまくだまされたというかなんというか・・・ちょっとどうなのかなぁって思いますよ。ていうか、浅葱君、好きな女の子の近辺はちゃんと調べましょう・・・(^^;)。と、責任転嫁させていただきます(笑)。まあでも、確かにそ…

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『ミチルさん、今日も上機嫌』/原田ひ香 ◎

学生時代・OL時代初期に、バブルの恩恵を受けまくったミチルさん。そのノリで何となく「いい感じ」で過ごして来れてしまったおかげで、現在「45歳・バツイチ独身・子供なし・住むところはあるけど職はなし」なんていう状況に。なのにタイトルが『ミチルさん、今日も上機嫌』なもんですから、どういうこっちゃ?と気になって。読みやすい文体もあって一気読み。原田ひ香さん、初読み作家さんですが、なかなかいいです♪ 私、ミチルさんよりちょっと下の世代なんですが、作中のミチルさんとは同い年(笑)。45歳で仕事がない独身って・・・もっと悲壮感漂っちゃうかと思いきや、なんだかんだ不安はありつつも、上機嫌かどうかはともかくそれなりに過ごせてしまうところが、ミチルさんのすごいところ。私だったら、不安で不安で、こんなに前向きには生きられないなぁ。うらやましい。この辺が、バブル世代とバブル直後就職氷河期世代の、違いなのかしらん(笑)。 とはいえ、ミチルさんはただのバブリー女じゃありません。持前なのか世代的特徴なのか、物怖じしない積極性で物事にも人にも関わっていけて、それをさばける有能さがあり、ちゃんと周りや人を見て相手を思って行動できるところ、気配りも出来るいい人なんですよ。まあ、落ち込んだら過去の男を呼び出して褒めてもらったり奢ってもらったりしようとするところなんかは、すごくちゃっかりというか調子よすぎじゃない?って気もしなくはないんですが。でも、それを気負いなく出来ちゃうところが、なんとも。羨ましい…というとちょっと違うな。素直…

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『フランダースの帽子』/長野まゆみ ○

長野まゆみさんがよく使うモチーフに、異性同士なのによく似た親戚関係(姉妹、兄妹、姉弟、イトコ同士など)というものがあるんですけど、入れ替わったり性別を詐称したりと、境界の危うい感じがちょっと不安をそそりますよね。そんな不安定な浮遊感の漂う6つの物語を収めた『フランダースの帽子』は、それぞれに掴みどころがなく、なんだか靄の中を迷っているような心地で読んでいました。 「ポンペイのとなり」弟が姿を消してどれくらい経っただろうか。「フランダースの帽子」私の若いころの作品と、再会した。「シャンゼリゼで」雑貨店を営むモモコの主宰する読書会。彼女に投げかけられた謎。「カイロ待ち」新居のリフォーム作業中に出会ったのは・・・誰だった?「ノヴァスコシアの雲」老女たちが時々出入りしている、不思議な家で巡り会った老女。「伊皿子の犬とパンと種」記憶を失った男と係わった年上の女たち。真実はどこに? 「ポンペイのとなり」・・・、びっくりしました~(^_^;)。思わず、え?えええ?!って、最初まで戻っちゃいましたよ。いい意味で、ずるいなぁ。「シャンゼリゼで」の語り手って・・誰だったんでしょ?モモコの読書会の常連参加者だと思ってたんですけど、モモコも知らない事実も知ってたりする・・・。親戚なのかしらと思っても、モモコのプロフィールとは違ってくるし。妙に、気になって、いろいろ考えちゃいました。謎だわ~ホント誰だったんだろう、本筋とは関係ないところでゾワゾワしました。「ノヴァスコシアの雲」不思議な雲を編むという話をした、あの老女は…

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『冷たい校舎の時は止まる』(上)(下)/辻村深月 ◎

高校3年の文化祭最終日、クラスメートが校舎から飛び降り自殺をした。それから2か月後の初雪の日、8人の級友たちは、その自殺者の精神世界らしき校舎に閉じ込められる・・・。辻村深月さんのデビュー作、『冷たい校舎の時は止まる』(上)(下)。いやはや、これがデビュー作とは・・・。凄すぎて、言葉もありません。 厚さ2.5センチを超える文庫、2冊。一気読みだったわけではないのですが、なんだかもうホントに凄い・・・の一言。雪が降り続ける中、校舎に閉じ込められる8人のクラスメートたち。どうしても思い出せない、自殺者の顔や名前。その人物を思い出せないのに、繰り返す自殺のその時の光景。閉じ込められた校舎内が、自殺者の精神世界ではないかという仮定。そして、8人の中に、その自殺者がいるのではないかと言う推測。精神世界から脱出するには、誰か一人がその者の内側に残り、〈心を閉じる〉必要があるという。 クラスの友人から、痛烈な嫌がらせを受け、心を病んでいた深月。その深月を注意深く守るために団結したクラス委員たち。8人それぞれが抱える、弱さや引け目、葛藤。そこまで極端ではないものの、私にもそれらに心当たりがあって、胸が痛んだ。それらのマイナス感情が増幅すればするほど、彼らは追い詰められる。日ごろは、気付かないふりをして流していても…。 自殺があった5時53分。その時間を指して時が止まり、8人は脱出を模索したり、精神世界についての意見交換をしたりしつつ、それぞれの記憶をたどろうとするが、やはり自殺者のことが思い出せない。そして…

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