『花野に眠る』/森谷明子 ◎

秋葉図書館に舞い込むささやかな謎をそっと解いてゆく、『れんげ野原のまんなかで』の続編、『花野に眠る』。やっぱり、図書館がらみ・本がらみの物語って、いいですねぇ、森谷明子さん!読書好きにはたまらないです、こういう物語。 ただ、今回は図書館がらみというよりも、大地主・秋葉家にかかわる様々なミステリーや思い出などが物語になってた感じ。もちろん、本の知識もあちこちに出てくるし、図書館という色々な人がふらりと立ち寄るような公共の場所ならではの、人間関係の面白さや意外さなども、物語の展開にいい味を加えてはいたのですが。 前作でれんげを植えた秋葉氏、田んぼを復活させるという発言もあったし、「次作は水田のまんなかでかしら(笑)」とか思ってたんですが、それはもうちょっと先の話になりそうですね♪しかしホント、本作でも「気さくでガハハなじい様」ぶりは健在、頼れる地元の名士って感じでいいですね!お年寄りっていう感じがしない(笑)。 内容細かく書いていくと、ホントどの章にもいろいろ言及したくなってしまうので、少しだけ。 本作で一番うれしかったこと。「エリノア・ファージョンの児童文学が取り上げられていたこと」です。本が好きな子供だった私ですが、読んでいた海外児童文学と言えば『赤毛のアン』や『ドリトル先生』などの超メジャーな作品ばかり。小学校高学年になって初めて、「ファージョン作品集」を図書館で見つけて読み始め、瞬く間に夢中になりました。『マーティン・ピピン』シリーズ、『銀のシギ』『としとったばあやのお話かご』『ムギと…

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『黒猫の遊歩あるいは美学講義』/森晶麿 ○

美学…美学。美学とは何ぞや(^_^;)。まずそこから蹴躓く私。物語が黒猫の美学論になると、途端に?マークが飛び出し、私の頭の周りをぐるぐる回ってました。す、すみません。美学難しいよ美学。森晶麿さんの『黒猫の遊歩あるいは美学講義』、美学抜きでは語れないのに、美学がわからん私が読みました(笑)。 24歳の若さで教授就任した、通称「黒猫」(本名描写なし)。黒猫の付き人をしている女子大学院生の専攻はエドガー・アラン・ポオ。彼女の研究するポオの各編を下敷きに、各章の物語が進んでいくのですが、ポオの作品は有名どころのあらすじぐらいしか知らなくて・・・。きちんと読んで、かつ美学的なことの素養もあったら、もっと楽しめたのかなぁ…という気もしますな、残念。 とは言え、重要なことではありますが、それを置いといても、面白かったですよ。賢い人の語ることは難しいけど、やっぱり博学な頭脳から繰り出される様々な推測や論理展開は、ナルホドなぁと思いますもん。それに、やっぱり黒猫と付き人の微妙な関係の揺れ動きは、読んでて「うふふふ・・・・」ってなっちゃいましたしね。ええ、私はキャラ読み派ですともさ♪黒猫も、実は実はかわいい奴だし、付き人さんも学究の徒にありがちな初心さが可愛らしい。美学は分からんが、微妙な恋心は美味しいです!微妙な恋心とミステリの組み合わせは王道ですしねぇ♪そんなわけで、美学分からないままに続巻を読んでもいいのか、ちょっと悩んでおりまする(笑)。 あ、そうそう。一番最後の章「月と王様」で明かされる「骨笛」のト…

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「代書屋ミクラ」/松崎有理 ◎

ふふ。と、思わず笑ってしまう。 北方にある蛸足大学を卒業して代書屋(論文代筆業)を営む青年、ミクラ。 なんて愛おしいトホホなんでしょう♪私、大好きだわ~こういう青年。もう、たまりません(笑)。 初読み松崎有理さんの『代書屋ミクラ』、大変楽しく読めました~♪ 表紙の、真面目そうで可愛らしい青年、非常に好もしいです~(#^.^#)。この子が、一生懸命代書屋稼業に勤しんでるかと思うと、大変愛おしいですねぇ(笑)。ミクラはもう学生じゃないけど大学関係者みたいなものなので、学食のオバちゃんか大学図書館の事務員オバちゃんか、そんな立ち位置でそっと見守りたいです!わはは。 三年間で一定の水準を満たした論文を発表しなければ、研究者を退職せねばならないという「出すか出されるか法」のため、大学の研究者たちは論文の数をこなさなければならなくなり、その需要を受けて「論文の代書屋」なる仕事をしているミクラ。 先輩のトキトーさんから回ってくる代書依頼は、依頼人か論文そのものか、はたまた両方に癖があり、毎度の如く四苦八苦。 そんな苦労の中の癒しの光明が、素敵な女性への恋心なんだけど、毎度毎度一つの仕事が終わるたびにその儚い恋心も報われぬまま終わりを迎えてしまう。 ・・・ミクラくん、君は惚れっぽすぎるんだと思うよ、オバちゃんは。恋のときめきに浮かれることで仕事へのエンジンかけてるのかもしれないけど、ねぇ(笑)。 しかし、蛸足大学の研究者たちの論文内容、これでいいのか(笑)。結婚と業績の関係性とか、占…

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『ラブコメの法則』/東山彰良 ○

う~む、むむむ。思ってたのとちょっと違ったなぁ。タイトルが『ラブコメの法則』ってあるから、もっとラブコメラブコメしてて笑えるのかと思ったんだけど、ちょっと違ったような気がしますな。東山彰良さん「このミス」出身の方だそうですが、本作はミステリー色はほとんどナシですね。映画のうんちくが好きな人は、面白いのかもしれないな~(残念ながら私は超メジャーなのしかわからなかったデス)。 東京で夢破れて故郷博多に戻り、しがない映画コメンテイタ―として細々生きる主人公・松田杜夫。彼の周りには、強烈な個性あふれる女性親族たちがいて、彼を引きずり回したり、叱咤激励したりしている。あるとき知り合った、ちょっとビッチ(!)な女性・岩佐まち子に恋をしたのだが、彼女には子供がいたり、元夫が押しかけてきたり、一筋縄ではいかない。映画配給会社を経営する百合子伯母さんを始めとし、夫にだけ夢中な母・日登美、男前な真璃絵叔母、男の影が絶えることない奈津子叔母、地方局アナの従姉や美人モデルの姪や子役デビューを果たしてる姪、とにかく美人で気風がよく強気で情が深くて・・・一人二人ならいいが、こんなの束になってかかってきたら、そりゃ弱腰のヘタレ男になるしかないわ(笑)。ラブコメ、というよりヘタレ君の受難物語?! ・・・ストーリーを追うべきなのか、ちょっと迷うな(笑)。まあ、なんていうか、ヘタレなダメ男が子持ちのイケイケ女に恋をして、イロイロどたばた(美人親族が事態を余計混乱させる)しながら、失業の危機も何とか乗り越え、恋の方は?・・・ってカ…

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『ネト充のススメ』/黒曜燐 ◎ (コミックス)

無料漫画アプリ〈comico〉で連載中の、インターネットゲーム(ネトゲ)世界とリアル世界の人間関係その他もろもろが交錯するラブコメ、『ネト充のススメ』。ふとしたきっかけで〈cimico〉を知って、すっかりはまってしまった漫画です。いやあ、読んでて楽しいのなんのって。毎週の更新にワクワクしてしまっています(笑)。作者黒曜燐さん、単行本化おめでとうございます! ネトゲはをやったことなくても楽しめるストーリー展開、大人だってぎゃあぎゃあのたうち回りたくなる恋愛エピソード、登場人物たちのピュアっぷりなど、大変楽しいエンターテイメントですよ~♪ 主人公の盛岡森子(=もりもりちゃん)が、とある挫折から三次元に見切りをつけ、新しい楽しいネトゲ生活を始めるところから物語は始まります。新しいゲームで知り合った、可愛らしい女性キャラ・リリィさんとのドキドキワクワクなゲーム生活、リリィさんの所属するギルド(ゲーム内のグループ)に入り、他のキャラとも仲良くなり、ネトゲパートの関係も膨らんできたところで、この第1巻は終わるのですが…。 もうね、アプリ読んでるんで、先の展開分かってるんですけど、それでも楽しくて仕方ない。私のお気に入りは、まずはもちろん、主人公のもりもりちゃん。アラサーニート女子なんていうと、むちゃくちゃ干物女かと思いきや、ピュアッピュアでかわいいのですよ。性格もいいし。控えめ過ぎるところが玉にキズ、かな。で、次のお気に入りが、本書最後の方で出てくるコンビニ店員・藤本君(本書ではまだ名前出て来てない)で…

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『パンダ銭湯』/tupera tupera作 ◎ (絵本)

我が家の次男は、小学校6年生である。もう絵本、という年でもないのだが、時々とんでもなく「大当たり」な作品を見つけてくることがある。本作『パンダ銭湯』なんか、まさにそれ。あまりに彼が「面白かった!面白かった!」というので、私も読んでみました。・・・いやぁ、これはスゴイわ。うん。tupera tupera(ツペラツペラ)さんという絵本作家さんは存じ上げませんでしたが、非常に面白かったですよ♪ 世の中には、パンダ以外入場お断りという銭湯があるそうです。とあるパンダの一家が、その銭湯に行き、お風呂に入って出てくる。ただ、それだけの内容なんですけどね(笑)。但し、パンダたちには、知られてはならない衝撃の事実が・・・! その衝撃の事実が、大変ツボでございました(笑)。是非、読んでみてください。パンダちゃんたち、可愛いですよ~。そして衝撃の事実と、それに付属してくる小ネタな事実も、くすりと笑える楽しい絵本。 ネタバレしないで、この面白さを伝えるのは、私には出来ないなぁ(笑)。5分もあれば読めちゃう、ホントに短いお話ですが、面白いし、絵も可愛いですよ。 ちなみに。次男がこの本を発見したのは、とある本屋さん。平積みの表紙を見て、ピンと来たのだそうです。ピンと来たけど、時間がなくて立ち読みすることもできず、タイトル覚えて図書館で予約。で、先日借りてきて、〈大当たりを引き当てたオトコ〉として母に称えられることになったのでした♪ (2015.02.14 読了) パンダ銭湯 [ tupera tupera ]楽…

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『ある一日』/いしいしんじ △

うう~む。申し訳ないけど、期待からかなり外れてしまってた。いしいしんじさんの、とある作家とその妻が出産に至る一日を描いた『ある一日』。のんびりした散歩から始まり、大変な陣痛分娩、そして生れ出た胎児の心境すら綴る、大変濃い一日の物語。 『みずうみ』の、慎二・園子夫妻の話なのだろう。あれから5年、ふたたび身ごもった園子の予定日。散歩、買い物、調理と食事、産院への移動。病室、陣痛室、分娩室。生れ出たいのちと慎二・園子。 『みずうみ』で水が呼び起こす幻想的な世界を彷徨ったのですが、今作はほぼ現実的な物語。園子の出産はかなりの苦痛に見舞われるもので、・・・正直読んでて辛かったです。私は十年以上前に2度出産してますが、こんなに大変じゃなかったですよ(-_-;)。これ読んで、出産に対して「痛い・辛い・怖い」というマイナスイメージをもたれたら、ちょっと嫌だなぁ。確かに痛いし大変ではあったけど、ここまでじゃないことも多いです。一般的に。 ううう・・・すみません、一生懸命読んだんですけど、あまりにも出産シーンが強烈で、他の感想が書けません~。 (2015.01.21 読了) ある一日 [ いしいしんじ ]楽天ブックス 新潮文庫 いしいしんじ 新潮社発行年月:2014年08月 ページ数:141p サイズ:文庫 ISBN 楽天市場 by

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『だれかの木琴』/井上荒野 △

うえぇぇ~。全然、共感できません~理解できません~勘弁してください~(-_-;)。この居心地の悪さというか、醜さというか、・・・正直、気持ち悪かったです。井上荒野さんが描く、40代主婦のストーカー物語、『だれかの木琴』、ちょっと、これは私には、無理でしたわ~。 立場というか境遇みたいなものが、多少似てると思うのね、主人公・小夜子と私。凡庸な主婦で、子供はそんなに手がかからなくなってて、ダンナはそこそこだけど稼いできてくれてて、って。だけど、ホントに全然理解できないの。美容師からの営業メールに返信したり、頻繁に美容室行ったり、美容師の家探し当てて差し入れを置いてきたり。・・・やらないでしょう?やらないよねぇ。小夜子が行動に移す度に、「いやいやいや、もうやめようよ…」って気持ち悪くなる。だけど。ふとした時に、何の陰りもない自分の人生のはずなのに、不足というか欠けがあるんじゃないかって不安になる感じ、その感覚は判る。小夜子はそのせいで「自分はおかしくない」と思ってストーカー行為にのめり込んでいく。物語の冒頭を何回か読み直したんだけど、そのきっかけが全然わからない。だから、もしかしたら自分にも、その判らないきっかけが突然訪れるんじゃないか、そんな気がして気持ち悪かった。 どこで歯止めがかかるのか、どこでトドメが刺されるのか、読み進めれば進めるほど、気持ちの悪さはどんどん膨らんで、実際胃の具合が悪くなったような気すらしました。 ストーカー行為に走る小夜子、気が付かないふりを続ける夫、何となく受け流して…

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『スタッキング可能』/松田青子 ○

うわ~。何とも評価しがたいわ~(笑)。とあるオフィスビルに拡散する、取り替え可能な人々の日常をシュールに描いている、な~んて一口で紹介できるような、全然できないような。『スタッキング可能』というタイトル、スタッキングって確か積み重ねるとかそういう意味合いでしたよね?う~ん、スタッキングというよりは取り替え可能な方が、タイトルとしては正しいような。松田青子さん、2012年に翻訳家としてデビューされてますが、小説単行本としては、これが初作品だそうです。 「スタッキング可能」文章がねぇ。難解ではないんだけど、とにかくA田とかA山とか、同じ人を指してるのか別人なのか判らなくなって混乱してきちゃうんですよね。それぞれの独白形式で話が進んでいくんだけど、それぞれちょっとしたシチュエーションが同じだけど、感じることは違ってて、しかも時系列もずれてるような、実は別の事態のような。そんなシュールさが判らない…。私ってセンスないなぁ…って、ちょっと凹みます。居心地悪かったです。最後に『わたし』が出てきて、種明かしのようなそうじゃないような(笑)。すみません、ホントこの作品は判らなかった(^_^;)。 「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」お笑いコントの台本みたい(笑)。テンポよく「世の中ちょっと馴れ合いすぎじゃないの?」的な掛け合いをしていく女性二人。面白いし、うんうんと共感できる。最初はラジオかと思ったけど、どうも公園で掛け合いを演じていらしい。2回目には小学生女子2人と、片方の彼氏まで参加して、5人でポンポン喋り…

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『工場』/小山田浩子 ○

第150回芥川賞受賞の小山田浩子さん。受賞作『穴』も読みたい本リスト入りしてるのですが、実は受賞前に何かの書評でこの『工場』のことが取り上げられてて、興味を持っていたんですよね。で、こちらを先に図書館で予約することにしました。巨大な敷地を持つ工場、その中で働く3人の男女(一緒にではない)の、淡々としているけど微妙に不条理な日々が、なんとも言えない雰囲気の作品でした。しかし…独特の文章で、ちょっと私には読みづらかったです…。 ある程度まで読み進んで、「な~んか身に覚えのある状態だよなぁ」とむず痒さを感じてたんですが・・・、アレですわ~。起きる直前の夢に似ています。私、こういう感じの夢、時々見ます。何かがおかしいはずなのに、夢の中ではそれは普通の状態と受け入れてて、だけどやっぱりどこかオカシイよ!と思ってる自分がいる。で、目が覚めても、ちゃんと夢のことを覚えてて「やっぱりオカシイじゃないのよ!現実感なかったじゃんよ!」と自分にツッコミを入れてみたりするような。そんな夢。 「工場」大きな川に南北に分断され、巨大な敷地内には路線バスもあり、職場はもちろん職員の住居、レストランやスーパーやホテル、果ては美術館まで存在し、衣食住どころか教育や娯楽までもが賄える、一つの町のような工場。具体的な製品もあるようだが(子供の工場見学の土産が工場製品)、登場人物3人のやっている仕事と言えば、意味不明。1日中、書類をシュレッダーにかけ続ける、契約社員の牛山佳子。佳子の兄の派遣社員は、なんだかよく判らない全く重要そうで…

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