『人生はあはれなり・・・紫式部日記』/小迎裕美子・紫式部 監修:赤間恵都子 ◎

新編 人生はあはれなり… 紫式部日記 [ 小迎 裕美子 ] - 楽天ブックス 第1弾の前作『本日もいとおかし!枕草子』で、小迎裕美子さんの清少納言解釈の絶妙なセンスに「マジそれな!」と共感の嵐だったので、本作『人生はあはれなり・・・紫式部日記』も期待大!で読みました。そしてもちろんその期待は全く外れず、シキブ(紫式部)のネガティブで拗らせまくってる様子がビシバシ描かれ、どっちかって言うと私もナゴンみたいなパリピじゃないんで、「あぁ~、わかる!わかるよシキブ!」「ぐるぐる考えちゃうよね!悩んじゃうよね!」「あんなこと言われたら、ナゴンのこと恨んじゃうよね!」と、こちらも共感しまくり。 シキブさん、この子が男ならと父を嘆かせた才媛で、『源氏物語』で名を馳せ、仕えた主人は一条天皇の皇子2人を産んで後宮を席巻した中宮・定子、そんな華やかな経歴の持ち主なのに、とにかくネガティブ(笑)。出仕早々、総スカンの洗礼を受けて5か月の引きこもり、バカのふりで先輩からの攻撃をかわし、定子にこっそり漢籍を教え・・・、うわ~苦労人だ~。頑固者の父、ぼんやりで使えない弟、実家の栄達は見込めず、生きていくためにはからかわれたり嫌味を言われたりする苦手な宮仕えを続けねばならない・・・これはストレス溜まるわ~。 そのストレスのはけ口でもないけど、とにかくいろんな人物が出てきて様々な人間関係が絡み合う『源氏物語』を記すことになった、シキブ。パトロンである道長からはちょっかいを出されては躱し、宮中の貴公子たちとも渡り合い、同僚た…

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『Genesis されど星は流れる 創元日本SFアンソロジー』/東京創元社 〇

Genesis されど星は流れる【電子書籍】[ 宮澤伊織 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 水無月・Rは、「SFのSな所は理解できないし、Fはフィクションじゃなくてファンタジーがいい」などと、本格SF好きから怒られそうなことを公言している、超絶文系人間です(笑)。だったらSF読まなきゃいいのに、つい読んじゃうんですよねぇ。科学技術が発達した世界で、その技術の粋と人間がどのように共存しているかお互いを求めあっているか、などというエモさを求めてしまうのですよ。本作『Genesis されど星は流れる 創元日本SFアンソロジー』は、空木春宵さんの名前が入っていたので、飛びついた作品です。 ただ、空木さんの作品は、前作『感応 グラン=ギニョル』で読んだものでしたが・・・。 「エレファントな宇宙」/宮澤伊織 宇宙から飛来する高次元生命体と戦う、サイボーグ部隊とその仲間たち。「メタモルフォシスの龍」/空木春宵 恋を失うと、蛇や蛙に変容してしてしまう世界で、身体改造を続ける少女。「止まり木の暖簾」/オキシタケヒコ とある居酒屋の、不思議なメニューは、かつての従業員の女性のことを語ること。「対談:プロの覚悟を届けたいーー朗読という仕事」/池澤春菜・下山吉光 オーディオ・ブックの朗読を手掛けたことのある、二人の声優の対談「数学嫌いの女子高生が異世界にきたら危険人物あつかいです」/松崎有理タイトル通り(笑)。彼女が成し遂げたこと。「循環」/堀晃大阪の淀川近辺を散策しながら、過去に思いをはせる男。「されど星は流れ…

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『線は、僕を描く』/砥上裕將 〇

線は、僕を描く (講談社文庫) [ 砥上 裕將 ] - 楽天ブックス 映画化されたときに、それを見た古い友人が「映画見て原作読んでみたけど、すごくいいよ」と勧めてくれたのですが、なかなか〈読みたい本リスト〉が進まず、やっと手に取ることが出来ました。水墨画の世界に期せずして足を踏み入れることになった青年・青山霜介の物語、『線は、僕を描く』、私にとって全く身近ではない「水墨画」というものを知る、とても良いきっかけになりました。そして、本作が著砥上裕將さんのデビュー作だと知って、衝撃を受けました。 今となってはすごく失礼だとはわかってるんですが、私にとって「水墨画」って、「墨の濃淡で描いた、辛気臭くて古臭い絵」という印象だったんですよね。美術の教科書などで見かけても、ふ~ん・・・って感じで、とくに何も思わなかったのです。でも、本作を読んで「修正が効かない」「墨の濃淡だけでなく、筆さばきの妙で描くもの」「余白で余韻を作る」など、様々な技法や心意気などを知って、きちんと鑑賞する機会を得たいと思いました。 水墨画の大家・篠田湖山に偶然に出会い、少しの間話をしただけで、湖山の内弟子になることになった霜介。反発する湖山の孫で同年代の千瑛、兄弟子たち、大学の友人たちとの交流を経て、成長していく。霜介が湖山や他の水墨画家たちから教えを受けているシーンを読んで、「すごい観察力だし、とてつもない再現力で、どうやったって私にはその足元にも到達できない」と、ちょっと置いて行かれた感が、実はありました。 寝食を忘れて画題…

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『アンドリューNDR114』/アイザック・アシモフ&ロバート・シルバーヴァーグ 〇

『七十四秒の旋律と孤独』にを読んだときに、【トドの部屋】Todo23さんのおススメ頂いた、本書『アンドリューNDR114』。アシモフが「バイセンテニアル・マン」という短編で描き、その後シルバーヴァーグとの共著で長編化したこの作品、映画化もされてるそうですね。調べたところ、短編は1976年、長編化が1993年、そして映画化が1999年。そして、2025年の現在私が読み、このレビューを書くこととなりました。約半世紀前のSF作品が、今もなお読むに値する作品であるということに、驚きと喜びを禁じえませんね。 マーティン家にやってきた、家政ロボット・NDR114。その家の小さな娘・アマンダ(リトル・ミス)がアンドリューと名付け、マーティン家の家政及び二人の娘の養育に携わっていく。ふとしたきっかけで木工制作に比類なき才能を発揮したアンドリューは、製造元の調査を受け、それがほかの家政ロボットには現れ得ない能力であることを証言される。特別なロボットとして、製造元の干渉を受けないようにマーティン家に庇護されながら、「自我」を育てていくアンドリュー。リトル・ミスや有能な法律事務所の手を借りて、何度も裁判を繰り返しながら、自分の権利を少しずつ得ていった彼は、200年ののちに〈人間〉としての権利を認めてほしいと提訴し、そのために最後の手段を取ることになる・・・ 物語冒頭で外科医と面談をするアンドリューのやり取りに、そこはかとない不安を抱くのですが、すぐにアンドリューの「始まり」に時間は巻き戻ります。リトル・ミス、サ…

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『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門(3) 』/山田五郎 〇

「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門3 [ 山田 五郎 ] - 楽天ブックス 山田五郎さん、You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」ではいつも、絵画解説を楽しませて頂いてます!!絵画鑑賞だけでなく芸術全般的に鑑賞力の低い私ですが、そんな私にも楽しめてわかり易い内容の動画、本当に毎回ありがたいな~と思っております。その動画の2023年アップ分を書籍にした本書、『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門(3)』。第1弾の『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の味方入門』、第2弾の『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門(2)』に引き続き、動画で見たことの復習・思い出し・そして自分のペースで鑑賞が出来るので、ありがたい限り。 今回も、様々な画家や画商が紹介され、作品の謎解明だけじゃなくて、五郎さんのツッコミも冴えわたり、ニヤニヤが止まりませんでした。冒頭の「早わかり西洋美術史年表」や「ざっくり人物相関図」も、ホントに助かります。本文を見ながらここに戻って関係性を確認したり、画風流派の展開を確認したり、とっても役に立ちました。 ダ・ヴィンチを皮切りに、ラファエロ・レンブラント・マネ・ピサロ・ゴッホ・クリムト・・・錚々たるラインナップです。これでもかと有名な画家が出てくるし、あまり日本では知られてないけど素晴らしい作品を残してる画家や、雑誌挿絵画家やお札肖像画家なんていう何気なく身の回りにある「作品」の画家、色々な…

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『残照の頂 ~続・山女日記~』/湊かなえ △

残照の頂 続・山女日記 (幻冬舎文庫) [ 湊かなえ ] - 楽天ブックス 湊かなえさん、本ッ当~に、ごめんなさい!!湊さんは、全然悪くないです。もちろん本作『残照の頂』も。単に水無月・Rに、〈登山にいい思い出がない〉だけなのです・・・。この作品の評価の△は、前作『山女日記』でも書いたことですが、山岳部出身の父にガチ登山に連れまわされた記憶があまりにも過酷すぎて、「登山」というものに、全くいい思い出がないためなのです・・・(^^;)。 まあ、父にも悪気はなかったんだと思いますよ(笑)。86歳の今もなお、月に1回は高尾山単独踏破(1日に2往復)というトレーニングをしているようなガチ山好きには、自分の子供が運動嫌いとか体力がないとか、山に登ったら必ずやらされるスケッチが大嫌い(芸術センス皆無)とか、理解できなかったんでしょうねぇ(笑)。 そんな登山嫌いな私でも、前作読んだ時は「登山で悩み解決って、ちょっと羨ましい」とか「あ~、私も山に登った方がいいのかな~」とか結構惑わされて、「湊かなえさん、オソロシイ!!」と思ったものです。読んだのは2016年ですから、9年前。内容はぼんやりとしか覚えてなかったんですが、とにかく「山に登って悩み解決」という基本スタンスは覚えてたので、続編が出てすぐも〈読もう〉という気持ちがあまり切実ではなく、やっと今頃になって「まあ・・・読むか・・・」ということになりました。 前作に比べて、山の難易度が上がっています。そして、コロナを挟んで登場人物たちの状況も、かなり切羽詰…

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『墨のゆらめき』/三浦しをん ◎

墨のゆらめき [ 三浦 しをん ] - 楽天ブックス 楽しかった!温かい気持ちになって、ほろりとした!やっぱり私、三浦しをんさん大好きだなぁ!!新宿にあるこじんまりとしたホテル「三日月ホテル」のホテルマン・続力(つづき・ちから)と、三日月ホテルに筆耕士として登録している書家・遠田薫の邂逅から始まる物語、『墨のゆらめき』。時間に余裕があったのもあるけど、ぐいぐいと惹き込まれて、ニヤニヤうふうふ笑いながらあっという間に読了。 小規模ながら常連様のご贔屓もあり、着実な営業を続けている三日月ホテル。中堅ホテルマンとして働いている続(遠田にはチカと呼ばれるようになる)は、自分の仕事が好きだし「話しかけられやすい」雰囲気(特技?)を持っている。登録している筆耕士・遠田との連絡がメールしかなかったため、直接遠田の住居兼書道教室を訪問したことから、二人の関わりが始まる。小学生の友人への手紙、彼氏と別れたい女性の手紙、それらを二人で組んで代筆したり、なんとなく居心地がよくて時々は訪れて、書道教室の見学・遠田の書家としての仕事の見学・二人で食事をしたり、酒を飲んだりして過ごしていた。 読んでいて『まほろ駅前多田便利軒』にを思い出すな~って、感じました。まあ、変わり者具合的には、遠田はまだ行天には及びませんが(笑)。家族でも友人でも恋愛でもない関係、だけど一緒にいて居心地がいい関係。そんな二人に、遠田の飼ってる猫のカネコや書道教室の小学生・三木なども加わり、時々頓狂なやり取りが挟まれたり、ほんのり温かかったり、遠…

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『なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか?』/岡野あつこ 〇

なぜ「妻の一言」はカチンとくるのか? 夫婦関係を改善する「伝え方」教室 (講談社+α新書) [ 岡野 あつこ ] - 楽天ブックス ワタクシ、妻の側でございます。最近、ワタクシの一言で夫がブチ切れる場面が数回ありまして、「そりゃ私の言い方も悪かったけども・・・」と反省もするんですが、「なんか、向こうの受け取り方がひがみ過ぎてない??」と思ったりも。てなわけで、『なぜ「妻の一言』はカチンとくるのか?』というタイトルの本書を知った日、速攻で図書館に予約を入れてしまった次第です。著者岡野あつこさんは、自らのバツ2経験を活かして離婚カウンセラーとして活躍、YouTubeチャンネルもやってらっしゃる方です。 サブタイトルに〈夫婦関係を改善する「伝え方」教室〉とありますが、妻の物言いを非難するような内容ではありません。ありがたや(笑)。どちらかというと、夫の側の対応の悪さを指摘して、「妻はこう考えてるのに、どうして夫は言葉や態度の出し惜しみをするのだ」的なことを書いてくれています。そこを読みながら、「夫というのは、〈察してちゃん〉なのだなぁ」と、再確認してしまいました。〈察してちゃん〉を察してあげないから、ブチ切れるわけだ・・・もちろん、それだけじゃないけど。 夫婦間にも「ホウレンソウ」が必要、ってやつですねぇ。あと、「夫婦だから、わかるだろう、察してくれ」は、よくないですね(多分、我が家の揉め事の大半はこれのせい。互いに)。中高年男性の「謝ったら死ぬ病」は、壊滅的にヤバいです。ありがちですが(ウチの夫…

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『消滅世界』/村田沙耶香 〇

消滅世界 (河出文庫) [ 村田 沙耶香 ] - 楽天ブックス 人工授精の技術が進歩し、人類が性愛を失いつつある世界。いやぁ、村田沙耶香さん、相変わらず軽やかに「とんでもない設定」をぶっ込んできてくれますね~。この『消滅世界』はユートピアなのかディストピアなのか、非常に考えさせられました。 人工授精の技術が発達して、ほぼすべての人々が直接的な性交ではなく人工授精で子孫を残すことになった。恋愛は、〈ヒト〉ともするし〈キャラクター〉ともするが、結婚相手と性交するのは「近親相姦」だという。さらに、日本における実験都市・千葉では、徹底した妊娠・出産・育児管理が行われ、男性も人工子宮を着用しての妊娠が可能だという。主人公の雨音は、そんな世界の中で育ち、多少の違和感を覚えつつも結婚・離婚・再婚をし、2度目の夫・朔の関係のこじれた恋人が自殺未遂をした末に夫に別れを告げたことから、実験都市への移住を決意する。友人同士のふりをして同じマンションの隣どうしの部屋に住み、友人の医師の助けを借りて、お互いの卵子と精子を使って同時に人工授精し妊娠したが、雨音は流産、朔は初の男性出産者となる。二人は妊娠出産の過程でどんどんすれ違っていき、最終的には離れて暮らす。雨音は、一人で暮らしながら、とある「子供ちゃん」と出会い、彼を自分の家に招き入れる。 恋愛と性愛すら分離し、性愛の方はどんどんすたれていく世界。なんとなく、若者たちの間で恋愛結婚が廃れつつある現代日本に通じるものがあるような気もします。 3つの章に分かれている…

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『アナベル・リイ』/小池真理子 〇

アナベル・リイ [ 小池 真理子 ] - 楽天ブックス これは、しんしんと怖いですねぇ。小池真理子さんの描く、40年にも及んだ幽霊譚。ポオの詩『アナベル・リイ』のようにひっそりと、こちらの意思は通じず、ただひたすら主人公に寄り添ってきた、その情念。 女優を夢見て上京しながら、才能及ばず酷評されたことを慰めてくれた男・飯沼と結婚した、千佳代。飯沼の行きつけのバーのアルバイト・悦子は、千佳代の唯一と言っていい友人となる。結婚後間もなく、千佳代は急病に倒れ、そのまま帰らぬ人となる。悦子のバイト先のバーの主・多恵子は、かつて飯沼に心を寄せ、かつ何度かは情を交わしたこともあったが、すでに新しい恋人との関係が成立していた。だが、悦子や多恵子の前に、千佳代の亡霊が現れる。何をするわけでもなく、俯いてひっそりと立ち尽くすその姿に、彼女たちは恐れおののき、何度もおびやかされた多恵子は、憔悴し倒れ、入院先で怯え震えながら、息を引き取ったという。千佳代の影に慄きながらも、飯沼への気持ちを抑えられなかった悦子は、飯沼と結婚し、長く一緒に暮らした。その間には、飯沼に執拗に執着する女性が駅で転落事故で死亡したり、飯沼が老年に差し掛かる際の激しい不倫の末相手ともども自動車事故で亡くなったりするという事件が起きていた。 それらの出来事を詳細に、憑かれたように書き綴った悦子。書きあがったそれを、読んでいた存在は・・・。 千佳代が執着したのは、飯沼ではなかったのでしょうね。田舎から出てきた若い女が、たった一人できた友達に執着…

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