『塗仏の宴 ~宴の始末~』/京極夏彦 ◎

文庫版 塗仏の宴 宴の始末 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス 下田署の刑事・村上貫一の後悔から、下巻たる『塗仏の宴 ~宴の始末~』は始まる。そして、前巻『塗仏の宴 ~宴の支度~』から連なる、いくつもの組織集団の抗争と派生する謎、時折挟まれる〈超越者のような存在の独白〉、京極堂一派の情報収集の奔走と京極堂への出場要請、京極堂(と超越者)にだけ見えている『ゲーム』、意を決して事態の憑き物落としに乗り出す京極堂。いやぁ・・・文庫にして1000ページ越えの超大作過ぎて、読むのに2週間かかってしまいましたよ・・・。ええ、いつもの〈読む鈍器〉ですからね、職場の休憩所で「あの人今度は何読んでんのよ・・・」な目線、歯医者の待合室では「すごい本読んでますね~」と受付のお姉さんに半笑いで感心されるという・・・(笑)。あのですねぇ京極夏彦さん、文庫でこの厚みは「ご飯食べながら読む」のに適してません!!本を開いて固定できません!!(笑) 前作『宴の支度』に登場した様々な団体・組織・集団・個人が、「韮山奥の戸人(へびと)村」を目指して動き出す。千葉の刑事・木場修太郎はその過程でいったん姿を消し、拉致された中禅寺敦子(京極堂の妹)を追って探偵・榎木津も姿を消す。木場の相棒・青木、榎木津のの助手・増田、カストリ雑誌の記者・鳥口の下っ端三人衆(笑)が情報収集に駆け回っては京極堂に出場を要請するも、「何ら事件は起きていない」「このゲームに自分が参加すれば事態は事件になる」と、京極堂は動き出そうとしない。そん…

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『塗仏の宴 ~宴の支度~』/京極夏彦 ◎

文庫版 塗仏の宴 宴の支度 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス とある依頼により、関口が伊豆山中の「存在を消された村」をさがす物語から、『塗仏の宴 ~宴の支度~』は始まる。それぞれに語り手の違う6つの短編が描かれ、合間に「関口が手を下したのかもしれない事件」について、関口が警察に追及されるシーンが差し挟まれていく。京極夏彦さんの〈百鬼夜行 シリーズ〉の6作目は、なんと上下巻構成です。今までのシリーズ登場人物たちがそれぞれの短編で役割を果たし、不可解な事件・怪しげな組織などの謎をあとに残しつつ語られる本作、たぶんこれらの謎を解き明かして憑物を落とす続編『塗仏の宴 ~宴の始末~』。前編だけではわからないことだらけ、続きがとても気になります! 「ぬっぺっぽう」「うわん」「ひょうすべ」「わいら」「しょうけら」「おとろし」と妖怪の名を連ね、それぞれになぞらえた事件が起こって、語り手たちは右往左往する。途中、ちょっとだけ京極堂の語りが入ったりはするけれど、基本的には事件には関わってはいないので、憑物は落ちず、事態は解決に至っていません。これら6つの怪異は、どのような形で収束して、どのような「理(ことわり)」の光を当てられて、〈怪異なんてものは、ない〉と明らかにされるのか。 存在を隠された村、新興宗教、自己啓発団体、謎の占い師、古武術気功団体、漢方薬局の道場、催眠術、薬売り、風水術、神社に祀られている神の相違、様々な薀蓄の種は蒔かれ、芽を出しつつあります。これがどのように絡み合い、一つに…

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『平安ガールフレンズ』/酒井順子 ◎(エッセイ)

平安ガールフレンズ (角川文庫) [ 酒井 順子 ] - 楽天ブックス 平安女流文学の代表格といえば、紫式部の『源氏物語』と清少納言の『枕草子』。彼女らに加えて、藤原道綱母・菅原孝標女・和泉式部を「友達を紹介する」かのようにつづった本作、『平安ガールフレンズ』。酒井順子さんのおかげで、私も彼女たちにより親しみが持てるようになりました。ありがとう! 高校時代に『枕草子』を読み、自慢しいのいけ好かない女と苦手意識を持っていた清少納言に対して評価が変わったのは、そこから数十年ののちに読んだ小説から。そのあと、酒井さんの『枕草子REMIX』で「そうそう!敬愛する定子様のサロンを盛り上げるためだったのよね!」と盛り上がりったものです。そんな清少納言をはじめとして、まじめで内にこもっちゃう紫式部・耐え忍ぶ藤原道綱母・元祖オタク気質な菅原孝標女・恋多き和泉式部の5人の人生を丁寧に紹介。なんとなくは知っていても、それぞれ細かくエピソードが紹介されるたびに「え~、知らなかった!!」「私も似たような感覚ある~」「こんな時代でも、やっぱりそうなのよねぇ」と共感の嵐でした。 知らなかったのは、孝標女が30歳過ぎても結婚もせず、実家ニートをしてたことですねぇ。勧められて宮仕えをしてみても、あまり積極的でない彼女には耐えられず、実家引きこもりにUターン(その後、結婚はしたようですが)。そんなところも、オタク気質なのかなぁなんて、ちょっと笑っちゃいました。なんせ彼女は、少女時代に「物語を読みたくて、等身大の薬師仏を作って…

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『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』/東京創元社編集部編 (アンソロジー)〇

時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー【電子書籍】[ 松崎有理 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 水無月・Rは、超絶文系人間である。そのくせ、書評で科学が進んだ未来の物語に文学的情緒を感じると、SFの「サイエンス」な部分についていけないのに、ついつい手を出してしまうのでございますよ。もてぬ者の憧れ、というものもあるかもしれません(笑)。本作『時を歩く ~書き下ろし時間SFアンソロジー~』も、書評に惹かれて手に取った一冊です。・・・難しかった~(笑)。創元SF短編賞の受賞者である著者たちによる、様々な時間SFを、堪能しました。・・・うん、理解はしきれてないです。 「未来への脱獄」/松崎有理 刑務所で、タイムマシンを作る2人の虜囚。成功?したの?「終景累ヶ辻」/空木春宵 繰り返すタイムリープの中で、少しずつ己を昇華する方向に近づいていく。「時は矢のように」/八島游舷 人間の意識活動の停止という危機に向け、人体の精神と運動能力の加速をすることになるが。「ABC巡礼」/石川宗生 セミ・フィクションの旅行記の聖地巡礼を続ける人々。いくつもの流派が派生し・・・。「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」/久永実木彦タイムトラベルが可能になった世界。未来の事故を防ぐために現代から派遣される者がやったことは。「ゴーストキャンディカテゴリー」/高島雄哉VR世界で火星に引越しし、とあるプロジェクトを請け負った者の30億年。「Too Short Notice」/門田充宏 死亡が決定した男。体感時間を引き延ばした最後に彼が願ったこと。…

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『病葉草紙』/京極夏彦 ◎

病葉草紙 [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス 毎度ながら、京極夏彦さんの作品のボリュームは、尋常じゃない(笑)。本作『病葉草紙』も、ソフトカバーながら、厚みは3.5cmを超え重量も600gを超え、通勤バックの中での存在感半端なかったですよ・・・。もちろん、職場の休憩室で奇異の目で見られましたしね、慣れっこですけど。八丁堀近くの藤左衛門長屋で起こる騒動を、大家の息子・藤介をワトソン役に、店子の久瀬棠庵が〈虫〉の仕業になぞらえて解決するという、割と軽いノリで描かれていて、ボリュームのわりに読みやすかったですよ~。 隠居大家の父に代わって、長屋の管理や見回りを担っている藤介。本草学者である久瀬棠庵は、店賃を年払いしてくれる優良店子なのだが、読み書きのために年中座りっきりなので、ついつい気になって様子を見に行ってしまう。ある日、長屋の店子・善兵衛が死亡し、孫娘が殺したと自供するのだが、それを見て棠庵は〈虫の仕業である〉と告げ、騒ぎを収める。それから棠庵は、藤左衛門長屋で起こる事件、藤介の父の友人の長屋で起こった騒ぎ、近隣の八丁堀の親分がかかわる事件、棠庵自身が地方へ出掛けた際に関わった娘の絡む事件、など様々な事件に対して〈虫の仕業〉になぞらえて次々と解決していく。 もちろん、棠庵が提示する虫は、本当はいない。こういった症状にこんな姿の原因があるのでは、という想像上の生き物が書物に記されているだけだし、事件を穏便に解決するためにそれを利用しているだけなのである。その〈嘘〉がわかっているのは、言い出し…

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『不村家忌憚 ~ある憑きもの一族の年代記~』/彩藤アザミ ◎

不村家奇譚 ある憑きもの一族の年代記 [ 彩藤 アザミ ] - 楽天ブックス 本作『不村家奇譚 ~ある憑きもの一族の年代記~』で語り継がれるのは、東北のとある地方の旧家・不村家に連綿と続いていく、水の憑きものとその一族の来し方行く末である。彩藤アザミさんは、全く知らなかった作家さんですが、本作は私の好きな〈ドロドロぬかるみ因縁土俗系〉(←ちょっとイタいアレ系な好みをつついてくる・・・)ですねぇ。ずっと、ゾワゾワしながら読んでいました。 使用人はすべて不具、時折体の一部が欠如した「神がかり」と呼ばれ、卓越した頭脳(才能)を持つ子供が生まれる、不村家。物語は、そのすべて不具であるはずの使用人の中でただ一人健常であった、菊太郎という男の幼少期の回想から始まる。農地改革で衰退しつつある不村家に生まれた、「神がかり」の愛一郎。やがて、不村の屋敷は火事でなくなってしまう。次の語り手は、一見健常に見えたがやはりフグを抱えていた使用人・千宇。不村家の家事の後を語る。そのあとは、火事で遠方に引き取られた不村家の娘・久緒(愛一郎の姉)の娘・不村詠子、詠子の娘・ヨウ、そしてヨウの息子・奈央、・・・そしてさらに世代を経た不村家を訪れた「木村」。木村の語りで、物語は閉じるのだが。 読みながら、「あぁ、これは、救いのないパターンな気がする・・・」と思っていました。衰退する旧家、火事で家は消失するも、憑きものはその土地に取り憑いたままでありながら、執拗に子孫の運命を捻じ曲げ引き寄せていく。かつて不村家の代々の家業は不具で…

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『ゼウスの檻』/上田早夕里 ◎

ゼウスの檻 - 上田 早夕里 宇宙開発のために、人工的に作られた生命体・ラウンド。彼らは人間を元にしつつ、II(アイ・アイ)という染色体を持ち、雌雄同体である。ラウンドがいずれさらなる宇宙へと進出していくための特区が木星の軌道上ステーションにあり、そこをテロリストが襲撃するという情報が入ってきた。上田早夕里さんの描く、新たなSF世界。以前に読んだ『火星ダークバラード』とは、別の世界観なのだそうです。どうして人類は、〈違う〉ということに対して過敏に反応してしまうのか。『ゼウスの檻』に囚われた、ラウンドとモノラル(単一性である従来の人類)の葛藤と混乱と苦い結末が描かれていきます。 ガス惑星である木星の軌道上には3つの宇宙ステーションがあり、その中の一つジュピターIの特区には、両性を持つ新たな人類・ラウンドが暮らしている。いずれ、その特区ごと切り離して宇宙船とし、彼らをが木星以降へと送り出すという計画なのである。遺伝子や染色体を加工し他種族を作り上げ、人類の尊厳を傷つけたとして〈生命の器〉という団体はラウンドを忌み嫌い、彼らを殲滅させようとテロリストを送り込むという情報が入り、警備隊の隊長・城崎は入れ替わるはずだった前任のハーディング隊とともに、襲撃に備える事となる。とある事件から特区から出ることを許されなくなったラウンド、ラウンド特区を維持するために機能するステーションスタッフたち、そしてステーションの警備の強化を図る、警備隊の面々。だが、テロは外部からの襲撃ではなかったのだ・・・。 ラウンドと…

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『丸の内魔法少女ミラクリーナ』/村田沙耶香 ◎

丸の内魔法少女ミラクリーナ (角川文庫) [ 村田 沙耶香 ] - 楽天ブックス 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』ってタイトルが、すごいインパクトですよね(笑)。シゴデキ(仕事のできる)なアラサー丸の内OLが魔法少女って、年齢的にどうなのよ?とか、そういうことはどうでもいいのですよ。村田沙耶香さんの描く、軽やかな中にもなにか不穏なものも感じる4つの短編、面白かったです! 36歳になる茅ヶ崎リナは、〈魔法のコンパクトで変身する「魔法少女ミラクリーナ」〉という設定で仕事の難題も軽やかに乗り越える、丸の内OL。小学校からの親友・レイコがモラハラ彼氏に別れを切り出したら、何故かそのモラハラ男と東京駅で魔法少女ごっこ(パトロール)をする事になってしまう。・・・結局、モラハラ男はレイコから〈偽の魔法少女〉だと判定され追いやられ、一時期ミラクリーナをやめてしまっていたリナに新しいコンパクトがレイコから渡される。 タイトルで魔法少女ファンタジーかと思いきや、現実の話だった表題作。モラハラ男とパトロールしてる流れで、パトロールがモラハラ男の欲求不満解消になっていくのが気分悪くて、(この話、どうなっちゃうの・・・)と不安でしたが、レイコの目が覚めてぶちのめして関係終了、ってことになってホントに良かったですよ。そして自分の中で〈ファンタジーな設定〉を作る処世術って、アリかもしれないと思いました。自分にエンジンかけられる設定、私も持ちたいな~なんてね。 表題作「魔法少女ミラクリーナ」と初恋の男の子を監禁する「秘密の…

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『了巷説百物語』/京極夏彦 ◎

了巷説百物語(7) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス いやぁ・・・、今回も、「鈍器な製本」でしたねぇ、京極夏彦さん。毎度ながら〈巷説百物語 シリーズ〉の分厚さ・重さに驚愕。そして、図書館の返却期限ギリギリ(次の予約待ちの人がいるので延長できない)に休日返上で残り1/3をなんとか読み切ったという・・・。そんな駆け足の読書で、やはりこのシリーズの重厚さには大変苦戦しました。次々出てくる化け物遣いたち、歴史に実在する重要人物たち、江戸末期に起こった様々な事件。『了巷説百物語』というタイトル通り、このシリーズが終わるにふさわしい〈大仕掛け〉の物語でした。 総州の狐釣り・稲荷藤兵衛(とうかとうべえ)は、看板は掲げぬながらも「どんな嘘も見抜く〈洞観屋(とうかんや)〉」の稼業も持っている。そんな藤兵衛にある日〈依頼主は老中首座水野越前守〉である、という洞観の依頼が入る。水野の改革を邪魔立てする〈化け物を操り人心を誑かす者共〉をあぶり出して欲しい、というのである。依頼を受け江戸に入り、黒部の猿・源助と猫絵のお玉という2人を仲間にし、調べを進めた藤兵衛の前に現れたのは、〈御行の又市の一味〉たちであった・・・。又市一味を水野に指し、一旦はその洞観仕事も終わったかと見えたが。少々の時を経て藤兵衛は、今や江戸一いや日の本一の両替商である福乃屋から「店や寮に現れる化け物をどうにかして欲しい」という依頼を受ける。化け物は人為であると既に中野の晴明神社の憑き物落とし・中禅寺が見抜いているのだが、相変わらず化け物は出没す…

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『美月の残香』/上田早夕里 ◯

美月の残香【電子書籍】[ 上田早夕里 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 私が今まで読んできた上田早夕里さんの作品は、美しいSFと繊細なファンタジーの融合、或いはSF色が強いハードボイルドだったのですが、本書『美月の残香』はまた違った方向性でした。SF要素もファンタジー要素も全く無く、現代の現実的な人間関係(執着)を双子同士の夫婦を通して描く物語でした。 一卵性双生児同士で結婚した、美月・遥花姉妹と真也・雄也たち。ある日姉の美月が失踪し、その夫である真也は、妻の香りがないと眠れなくなる。双子なのだから体の香りもにているだろう、美月のオーダーした香水を身につけてくれと頼まれた遥花は、義兄の執着に翻弄されるようになる。 私は双子ではないので、彼女らの「同一視されることへの葛藤」や「一緒にいたいという感覚(執着)」は、よくわかりません。それと、美月の失踪後の真也の執着ぶりにも、なんとなく違和感が。その違和感は、私の情の薄さのせいなのかもしれませんが。 美月の失踪の理由がミステリーになるのかと思いきやそうではなく、一卵性双生児は別人格なのに同一視することの危険性の話でもなく、ただひたすらに「遥花がつければ、香水をつけた美月の香りになるように調整された香水」を遥花につけさせようと執着する真也、それを拒みつつも迷う遥花、という構図を延々と描いた末に、美月の遺体が発見されるというラストを迎える。多分、連続殺人に巻き込まれた美月だけど、それに関して解決は描かれず、運悪く事件にあってしまっただけ・・みたいな…

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