『図書館のお夜食』/原田ひ香 △

図書館のお夜食 (一般書 428) [ 原田 ひ香 ] - 楽天ブックス 亡くなった作家の蔵書だけを収蔵していて夜の間だけ開館している図書館、そこで働く人々にはそれぞれに事情がある。併設されるカフェで提供されるまかないは、書籍の中に出てくるお料理。心惹かれる設定のはずだったのですが・・・原田ひ香さん、ごめんなさい。『夜の図書館』、ちょっと物足りなかったです・・・。 新たにその図書館の職員になった樋口乙葉をはじめ、元は書店員や図書館員、古書店員などで、それぞれ事情あってその職を離れる人をオーナーはスカウトしてくる。オーナーは姿を見せず、面接なども画像オフにしボイスチェンジャーを使用したズーム、元警察官の〈図書館探偵〉を雇っていたり、図書館であるビル以外にも倉庫を持っていたり、図書館の裏に寮があったりと、入館料や寄付では賄えないだろう運営費用の出所は謎。 各章で、ちょっとした事件が起こり、職員たちの努力や推理で問題が解決し、まかないで美味しいご飯が出てきて・・・なんだけど、なんか上手く噛み合ってないんですよねぇ。タイトルになってる割には、まかないの描写があっさりしてるし、それが事件解決の糸口になってるわけでもない。起こる事件も、上手く解決してスッキリって感じじゃないし・・・。職員たちそれぞれの事情も、あまり深く掘り下げられるわけでもなく、今ひとつよくわからない。 そうこうするうちに、図書館内で蔵書印のない書籍が発見され、調査と推理の末に一人の利用者が「自分の書籍を置いた」と白状する。その老女は…

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『プラチナハーケン 1980』/海堂尊 ◯

プラチナハーケン1980 [ 海堂 尊 ] - 楽天ブックス 『ブラックペアン 1988』で、〈オペ室の悪魔〉と呼ばれ佐伯外科教室の獅子身中の虫として牙を剥き、そして真実を知ることになった〈渡海征司郎〉という男の、若き日々を描く『プラチナハーケン 1980』。佐伯教授と渡海の父の間にあった出来事はなんとなく覚えてたものの、詳細が抜け落ちている状態で読んでしまいました。本作は、海堂尊さんの〈桜宮サーガ シリーズ〉の原点となる作品だと思われます。 東城大学医学部病院の総合外科学教室(佐伯外科)に燦然と君臨する、佐伯教授。その佐伯に重用される、無役の3年目医師・渡海。渡海は桜宮病院へアルバイトに行った際に、厳院長から様々な手術技法を叩き込まれ、元々素質がある上に経験値を積んで手術巧者となっていた。海外学会での天城との出会い、高階との軽い関わり、厳院長の息子・城崎との交流、へぇ~こんなところでつながるんだ~と感心。父の急死、高まる佐伯への不信、佐伯外科の分科に端を発する内紛と混乱、医療界の変化、そして渡海の失意と決意。 もちろん、昔の話なので田口センセたちは出てきません。ただ、垣谷先生が新人医師で猫田も新人看護師だったり、藤原看護師が渡海と同い年だと判明したり、黒崎教授がまだ講師だったり、東城大学医学部病院の歴史を感じる物語でしたね。 渡海の大胆で素早い手術の描写や、佐伯教授の院内政治の権謀術数や教室統治・・・、大学病院って大変だなぁ・・・なんて、アタマ悪そうな感想がつい、出てきてしまいます。桜宮…

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『ミライの源氏物語』/山崎ナオコーラ ◯

ミライの源氏物語 [ 山崎ナオコーラ ] - 楽天ブックス 水無月・Rは、〈アンチ源氏の君〉である。このブログの分類の中に「〈アンチ源氏の君〉におススメ?」なんていうラベルを作ってるぐらい、アンチなのである(笑)。そりゃたしかに、美貌と才気の持ち主ですよ。血筋もいいですよ。だけどさ、それを鼻にかけて上から目線で女君たちを自分の都合のいいように当てはめて支配し、ちょっと自分に不都合なことがあれば「なんて私は不幸なんだ」とか言ってベソベソ泣く。基本的に自業自得でも。・・・うん、やっぱり蹴りを入れたい(笑)。そんな『源氏物語』を、山崎ナオコーラさんがどのように読み解いてくれるのか?というのが、本書『ミライの源氏物語』を手に取った理由でございます。 タイトルだけ見て、「現代語訳あるいは現代風アレンジなのかな」と勝手に思ってたので、読み始めてちょっとびっくり。とはいえ、読み解くという意味では、期待通りでした。「紫式部がこの物語を書いた当時の世相を、現代の社会規範とのズレで読み直す」というもの。 千年前では当たり前だったことも、現代に当てはめれば大いに問題アリ、だから現代の読者はイライラ・モヤモヤする。「マザコン」「ロリコン」「ホモソーシャル」「貧困問題」「マウンティング」「トロフィーワイフ」「性暴力」「産んだ子供を育てられない」「不倫」「ジェンダーの多様性」「エイジズム」「出家」「受け身のヒロイン」と、様々な角度から、「千年前はOK(普通)だったことでも、現代社会規範に照らし合わせればNGだったり多様…

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『狩りの季節(異形コレクションLII)』/井上雅彦 監修(アンソロジー) ◯

狩りの季節 異形コレクションL2 (光文社文庫) [ 井上雅彦 ] - 楽天ブックス ワタクシ、自分が中途半端な〈耽美好き〉〈怪異好き〉だという自覚があります(笑)。そんな私にとって〈異形コレクション〉のシリーズは、実は憧れであり、生半可な気持ちで踏み入れてはならない神域でもあり・・・。ずっと、存在は知っていたし、多分私の好みに合う作品がたくさんあるだろうなぁという予測は、してたんですけどね。とうとう、その中の一冊に手を出してしまいました・・・。井上雅彦さん、このアンソロジー『狩りの季節』は・・、私の〈狩られる側〉的性質を、グリグリと抉り出してくれちゃいましたよ! いやはや・・・。大抵の人間を〈狩る側〉と〈狩られる側〉に分類するなら、私は狩られる側ではあると思います。ただ、基本的には世の中は狩り場ではなく、平々凡々に生きていく世界が広がっていて、特殊な事情が発生したとき突然その対象者にとっての世界が狩り場になるんだとは思うんですけど。その特殊な事情って、些細なことだったりとんでもないことだったり、並行世界だったり彼岸だったりして、普通はありえないけど案外誰でも陥るものかもしれない・・・なんて感じてしまったんですよねぇ。そこから妄想がちょっとでも膨らめば、もちろん私は〈狩られる側〉で。息を潜めて物陰に隠れ、対抗手段を考えてもあっけなく躱され、かといって諦めておとなしく狩られるまでのカウントダウンなんて怖くてできないわけで。 そんなメンタル&性質の持ち主の私が、こんなアンソロジーを読んだ日には、…

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『たおやかに輪をえがいて』/窪美澄 △

たおやかに輪をえがいて (中公文庫 く33-1) [ 窪美澄 ] - 楽天ブックス いやぁ、なんていうかね、文章はとてもいいのですよ。読みやすく、登場人物の造詣もしっかりしてる。なんですが、どうも本作『たおやかに輪をえがいて』の主人公・絵里子の煮え切らなさに、イライラしてしまうのですよ。窪美澄さん、初読みでこの感想は、ちょっと申し訳ない気がしますね・・・。 私と絵里子は同年代のパート主婦、子供も大学生になって手がかからない、平凡であることすら〈同じ〉と言えそうなのに、全然共感できなかったのですよ。共感できりゃいい、ってもんでもないんでしょうけどね・・・。 ある日、夫が風俗店通いをしていることに気付いてしまった絵里子。もやもやを抱えながら、自分が飲み込めばいいのか、問いただすべきなのか、などと迷っていたある日、娘が警察に保護され夫婦で迎えに行く事になる。夫は娘を叱りつけ、娘は反抗し、その流れで「風俗店のポイントカードを見つけてしまった」「ここを離れたい」と夫に告げ、絵里子は家を出る。友人の詩織の勧めで、海辺の温泉ホテルの数日滞在し、その後自宅に戻ることなく、ランジェリー店を経営している詩織が倉庫代わりに所有しているマンションで暮らしながら、詩織の店を手伝い、生計を立てる絵里子。母の再婚相手の死亡、その葬儀の場で夫と再会するも家には戻らず、詩織のマンションで暮らし続ける絵里子。詩織の店の店長になり、夫と知り合った小さなバーに、再会を期待しながら時々通う。クリスマスが近いある日、夫とバーで再会し、…

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『偽恋愛小説家、最後の嘘』/森晶麿 ◯

偽恋愛小説家、最後の嘘【電子書籍】[ 森晶麿 ] - 楽天Kobo電子書籍ストア 美貌の恋愛小説家・夢宮宇多(本人は〈偽恋愛小説家〉と自称)とその担当編集者・月子。前作『俗・偽恋愛小説家』のラストで微妙な関係に進展があったはずだったのに、以来お互いその件には触れず、相変わらずの曖昧な関係が続いている2人。そんななか、月子が担当する恋愛小説家・星寛人が「最高傑作が書けた」とSNSで発表する。出版権を争う各社が編集者を送り込んでいくさなか、星が真夏なのに凍死体として発見される。タイトル『偽恋愛小説家、最後の嘘』の「嘘」とは何か?本作は、森晶麿さんの描く偽恋愛小説家シリーズの完結編・・・になるのかしら?? いやぁ、相変わらず、夢センセがメンドクサイ上に、口が悪い(笑)。おとぎ話への造詣が深く、「世の中に通っている、その物語のふわふわした甘い砂糖がけの部分を引っ剥がして真実に迫る」という手段は、今までの2作同様です。とんでもない美貌に毒舌の拍車がかかり、編集者である月子を翻弄しながら、物語に挟まれる夢センセの新しい原稿で月子にも読者にも推理を促すんだけど・・・私は全然わかってなかったです。ていうかね~、どうも私と夢センセの相性はあまり良くないようで(笑)、二人の関係が曖昧過ぎてイライラしちゃうんですよね~。担当編集者と作家というビジネスな間柄で恋愛関係をはっきりさせるのは、なかなか難しいんでしょうけど。 『雪の女王』は、子供の頃に絵本を読んだことがえったような、なかったような・・・という感じで、メイ…

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『いいからしばらく黙ってろ!』/竹宮ゆゆこ ◯

いいからしばらく黙ってろ! (角川文庫) [ 竹宮 ゆゆこ ] - 楽天ブックス 卒業式の飲み会で、研究室の仲間から「アンタの不幸は甘っちょろすぎる」的なことを言われてトイレで泣いた龍岡富士は、聞き覚えのある気がする小劇団のチラシを見て、衝動的に公演を見に行くことに。そこでトラブルに巻き込まれた富士の運命は、一転する。竹宮ゆゆこさんの『いいからしばらく黙ってろ!』は、気弱な一般人の富士が、キャラの濃い劇団員たちとともに、バーバリアン・スキルという小劇団を立て直す物語。 大学演劇サークルから立ち上げられた小劇団って、星の数ほどあるけど、存続させるための活動費・熱意・スタッフの充実そしてもちろん観客が集まる実力など、様々な条件が必要である。そして、だいたい、とんでもなくキャラが濃くて演劇に対する熱量がすごいんだけど通常人としては、かなり常識をはずれるというかぶっ飛んだ人が多い。本作で富士が所属することになった「バーバリアン・スキル」も、演劇に対する熱量はとんでもないけど、常軌を逸してしまってる主催・南野を中心に、公演に向けての情熱はすごいけど、財政運営に関しては全く配慮がない連中の中にぶち込まれた富士が常識人らしさを発揮して・・・という展開だと思ってたんだけど、これがまた違ったのよ(笑)。 たしかに、富士は上下6歳差ずつの二組の双子に挟まれた真ん中っ子で、両親から兄弟間の調整役を背負わされ、自由気ままに生きる互いに争い合う双子たちに振り回されつつも、「ピンチになればなるほど張り切る」という性質を…

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『ハンチバック』/市川沙央 ◯

ハンチバック [ 市川 沙央 ] - 楽天ブックス 著者である市川沙央さんご本人が「先天性ミオパチー」という筋疾患を患っておられ、人工呼吸器と車椅子を常用されていること。同じ病状を持った主人公・井沢釈華の日々を鮮烈に描く『ハンチバック』は、芥川賞受賞作であること。授賞式で「読書バリアフリーの推進」を訴えたことは、記憶に新しい。 実を言うと、あまりにも話題になったこと、テーマが先天性かつ進行性で治癒できない遺伝子病あること、著者ご本人の病状のインパクトなど、「これは、読んでも感想が難しすぎるわ・・・」と、腰が引けていたのですよね。ですが、「紙の本が好き」という健常者のエモ感覚発言を吹き飛ばすような内容だと聞き、読んでみようという気になりました。 そんな事を言いつつ、私はどちらかと言うとエモ発言派です。電子書籍を否定する気は、全く有りませんが。今年の春、ほぼ初めて〈電子書籍での読書〉をしたのですが、「読むのに支障はないが、確認のための流し読みがしにくい」とか「左右の厚みの差で、読書の進行度を意識してたのか~」とか、直感的な点でちょっと使いづらいと感じてしまったんですよね。あと、今のところ(私が利用できる)図書館で借りられるのは紙の本のみであることも、読みたい本が多すぎる私にとって経済的に「紙の本」がありがたい、って面もあったりして。でも、文中で釈華が言う「健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモ」には薄々気付いていて、釈華の言葉に頭をぶん殴られた気がします。わかっていたけど、もっと切実に求…

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『学園キノ6』/時雨沢恵一 ○

学園キノ 6 - トップカルチャーnetクラブそういえば、久しく〈キノの旅 シリーズ〉の『学園キノ』を読んでないな~と思ったら、なんと2012年に読んで以来の、かなりのご無沙汰でございました。そして、図書館で受け取った本書『学園キノ6』の表紙をボケーっと見ながら「なんか、違和感???」ってアタマにクエスチョンマークが浮かびました。そう、表紙にいるのは「木乃」ではなく「キノ」なのです。どうしてなの、時雨沢恵一さん!! その謎は、本編が終了してから描かれる、特別エピソードで明らかになります。とりあえず、本編は後回しにして、このエピソードからレビューしていきましょうか。 木乃がふと気づくと、二輪車エルメスに乗っていて、出で立ちは『キノの旅』のキノのスタイル。だけど自我は、「木乃=謎の美少女ガンファイターライダー・キノ」のまま。食べるものを探して走行中に、型の古いバギーを運転している静先輩と遭遇するのですが、その出で立ちはシズ様であり、助手席には真っ白な喋るサモエド・陸(中身は犬山わんわん陸太郎)。お互い「コレは夢なんだ」と思いつつ、とある国に到着。国の女王の肖像画には、茶子先生。食べ物を求めて国の中を進んでいた木乃は、さくらという少女と知り合い、彼女の案内で美味しい食事をあちこちで大量に食べ、いろいろな人を見かけ、とてもいい気分で過ごすのだけど、「夢から起きようと思う」とさくらに別れを告げる・・・ 最初は、このエピソードなんだろ?と思ってたんですが、木乃が見かけた人々は、『キノの旅』に登場した…

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『火星ダーク・バラード』/上田早夕里 ◯

火星ダーク・バラード (ハルキ文庫) [ 上田早夕里 ] - 楽天ブックス 〈オーシャン・クロニクル シリーズ〉を始めとする上田早夕里さんの作品の世界観は、美しいSFと繊細なファンタジーに彩られているものだと思ってたら、本作『火星ダーク・バラード』はかなりハードボイルドでしたね。火星の警察官・水島を主人公に、遺伝子操作で生まれた強い共感能力を持つ〈プログレッシヴ〉の少女・アデリーンを巡る攻防戦が繰り広げられ、後半は特にアデリーンのサイキック能力の暴走からコントロール、タフではあるけれど普通の人間の水島が追い詰められていく様子、息詰まるような展開でした。 火星の渓谷に天蓋をかぶせ、その中を人間に適応した環境に作り変えることで居住を可能にし、天蓋と天蓋をチューブ交通網で繋いで行き来可能にしたという、壮大な都市計画が進み、次は木星へ人類進出・・という過程で、身体能力と知能が高く、共感力が高いことで互いに争うようなこともしない人類=〈プログレッシヴ〉が密かに産み出されていた。能力は高いものの、コントロールがまだ不安定だったアデリーンが引き起こした列車事故、その列車で護送していた凶暴な殺人犯を取り逃した上に、同僚殺害の疑惑をかけれた水島は、真実を探し当てるために個人捜査を突き進める中で、バディに裏切られ、死亡した同僚の恋人・ユ・ギヒョンに捕まったあと彼に情報を託して逃亡、その後プログレッシヴの存在を隠しておきたい研究組織(バックには火星政府)に急かされた警察に捕まってしまう。拷問のような取り調べの最中、…

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