『七人怪談』/三津田信三 編(アンソロジー) 〇

七人怪談 [ 三津田 信三 ] - 楽天ブックス水無月・R的〈土着民俗系ホラーミステリー〉の最高峰と思っている三津田信三さんが編者となって、それぞれの著者に見合ったお題を提示して「最も怖いと思う怪談を書いてください」と依頼して、仕上がった本書『七人怪談』。おなじみの作家さんもいれば、名前は知ってるけど読んだことない方、名前も全く知らなかった方、色々でした。そして、まだまだ暑い8月の末を、見事に〈怪談の祭典〉に変えてくれました。やっぱり夏はホラーですよね~(笑)。 「サヤさん」/澤村伊智 霊能者怪談嘘の投稿だったのに、その霊能者を知っている人々が続々と現れる。「貝田川」/加門七海 実話系怪談実話じゃなくていいのだ。かつて訪れた神社の近辺の写真。年月を経てその画像は・・・。「燃頭のいた町」/名梁和泉 異界系怪談小学生の頃に流行った地域での怪異の噂。大人になって紛れ込んだ場所。「旅の武士」/菊地秀行 時代劇怪談旅を続ける武士。彼の行跡には幾つもの死が。藩に戻り、不可思議な形で、復讐を遂げる。「魔々」/霧島ケイ 民俗学怪談亡くなった祖母の家に仮住まいした私が、壁に隠された屋根裏に見付けてしまったもの。「会社奇譚」/福澤徹三 会社系怪談著者本人の、職務遍歴。全部怪談に繋がるって・・・。「何も無い家」/三津田信三 建物系怪談三津田さんじゃない作家が、実家を訪れた際に体験したこと。 それぞれ味わいが違う怪談でした。やっぱり澤村さんは、怖いよね(笑)。「作り話」→「都市伝説化」→「実在?悪ノリ?」→「作り話の…

続きを読む

『ツミデミック』/一穂ミチ ◯

ツミデミック [ 一穂ミチ ] - 楽天ブックス 一穂ミチさんの作品を読むのは、2作目。前作『スモールワールズ』でも、様々なバリエーションで描かれる「穏やかに普通に生きているように見える人々に訪れる変化」を楽しませていただきましたが、本作『ツミデミック』もホラーやミステリなどの様々な作風の中で、「罪とパンデミック」の融合した世界を体験しましたね~。直木賞受賞作、面白かったです。 世界を瞬く間に恐怖のどん底に叩き落し、様々な情報が錯綜し、何度も感染拡大の波が打ち寄せては混乱した、コロナウイルスの蔓延。発生から4年たった今では、当時から今への「自粛」「ステイホーム」「マスク騒動」「マスク警察」などの様々な事態の狂乱とその変遷が、なんとなく現実感を感じられないままに、流れていった気がします。もちろん当時は、家族が感染したり、ステイホームで学校が休みになったり、自分にも影響があったはずなのですが・・・。 コロナ蔓延によって人生を変えられてしまった人々、「違う羽の鳥」や「ロマンス☆」「燐光」のようにゾッとする展開の物語が続いた後の、「特別縁故者」は「なんかいい話になりそうな展開なのに、どこで梯子を外されるんだろう・・・」とビクビクして読んでました。そのビクビクは外れて、いい終わり方が訪れたので、ホッとしました。じいちゃん、ナイスプレゼントだ!と笑っちゃいましたもん。だいたい「表に出せない金」が本当かどうかも、怪しい気も・・・?でも、そうやって釘を刺された恭一も、素直に手紙に書かれた言葉を受け取ることが…

続きを読む

『絡新婦の理』/京極夏彦 ◎

文庫版 絡新婦の理 (講談社文庫) [ 京極 夏彦 ] - 楽天ブックス私は毎回、京極夏彦さんの作品を〈神をも恐れぬ製本〉やら〈読む鈍器〉やらと称して、腱鞘炎になる不安を抱えつつ読んできたのですが、なんと今回は〈スマホに入れた電子書籍で読む〉という、禁じ手を使ってしまいました・・・。ちなみに、電子書籍で本作を買おうとすると4冊に分冊される文庫版での入手となりました。うん・・・軽かったですよ。持ち歩きもお手軽だったです。でも、でもね、なんか物足りなかったです・・・!なんと我儘なことよ・・・(笑)。〈百鬼夜行シリーズ〉の5作目である『絡新婦の理』、〈京極本は紙で読むべし〉と感じてしまった作品となりました(笑)。 まず最初に、ストーリーを要約するとか、いくつも発生する事件を整理して解説するとか、そういうコトはできません!!と白旗を上げておきます(笑)。毎度のことですが、いくつもの事件が発生し、死体は量産され、シリーズメンバーが関わりあって集まり、情報は錯綜し、京極堂が出座するまでに事態は混乱を極め、憑き物落としでは迸る蘊蓄と怒涛の博覧強記が繰り広げられます。つまり、私の如き浅慮・アタマの回転数が低さでは、読むだけで手一杯だったのでございます。読んでて、混乱することも多々あり、メモを作りながら読んでもワケがわからなくなることも・・・。ダメだこりゃ、京極作品を読む資格あるのかしら、私・・・(笑)。 冒頭、いきなり京極堂と黒幕と思われる女の会話から始まる。彼女の求める世界は、彼女が織り上げた犯罪によって実…

続きを読む

『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門(2) 』/山田五郎 ◎

「山田五郎 オトナの教養講座」 世界一やばい西洋絵画の見方入門 2 [ 山田 五郎 ] - 楽天ブックス山田五郎さん、You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、毎回楽しい絵画解説を視聴してます~!!絵画鑑賞だけでなく芸術全般的に鑑賞力の低い私ですが、そんな私にも楽しめてわかり易い内容の動画、本当に毎回ありがたいな~と思っております。その動画の2022年アップ分を書籍にした本書、『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の見方入門(2)』。第1弾の『「山田五郎 オトナの教養講座」世界一やばい西洋絵画の味方入門』に引き続き、動画で見たことの復習・思い出し・そして自分のペースで鑑賞が出来、とても良かったです! 今作では「はじめに」で、著作権使用料について五郎さんの思うところが縷縷述べられ、たしかにねぇ・・・著作権は守られてしかるべきなんだけど、毎年更新とかお金的にきついよねぇと思っちゃいますね。1年目はともかく、2年目以降は内容によっては無料とかせめて割引とかあったらいいのになぁ、と。こんなに芸術振興に尽くしてる動画、たしかに収益化してるとはいえ、認めてもらえたらいいなぁ・・・って思います。 今作でも「早わかり西洋美術史年表」と「ざっくり人物相関図」がありましたが、まぁまぁ複雑(笑)。◯◯派、〇〇主義、たくさんありすぎて私の許容範囲を超えてしまって全然覚えられません(笑)。相関図も血縁から師弟関係から交友関係、影響受けたとか反発とか色々、なので内容を読み進めつつも、時々ここへ戻って…

続きを読む

『ママ』/神津凛子 ◯

ママ [ 神津 凛子 ] - 楽天ブックス 〈イヤミス〉ならぬ〈オゾミス〉という書評を見て、「悍ましいミステリー?いかほどなものかしらん?」という興味本位で図書館に予約を入れてしまった本作『ママ』。著者・神津凛子さん、この作品以外も「日常と隣り合わせの恐怖」を描く作品があるそうで、そのうち〈オゾミスの女王〉とか呼ばれるようになるんでしょうか・・・。 地方の古い団地に暮らすシングルマザー・成美。食品工場で働き、娘・ひかりは保育園児。団地の隣の住人・三田さんは、独居老人。最初はわだかまりがあったものの、とある事件を経て母子共に仲良くなる。ひかりの誕生日、自転車の鍵を外し忘れた成美が自転車に戻ったその一瞬の隙に、ひかりは団地の階段から転落。運ばれた病院からの帰路に襲撃された成美が目を覚ましたのは、見知らぬ空間。そして見知らぬ男が「娘の情報を知りたければ、過去を語れ」と成美に命令する。手足を束縛されながらも、脱出を試み、男に反撃しようとするもののうまく行かず、成美は男から様々な暴力を受ける。なぜ、男は彼女を拉致監禁したのか。 途中で、「あ~、この男の素性は多分アレだな」というのがわかってしまったのだけど、その恨みを何故成美に向けるかがよくわからなくて、なんだか消化不良のまま酷い暴力描写が続くので、非常に気分が悪かったです。男が成美を恨んだ流れがなんとかわかってからも、「だから何だよ!」というムカムカは収まらず。最終的に、成美が「母である強さ」を発揮して男を打ちのめして脱出、男は自分の弱さと向き合って…

続きを読む

『天満ばけもの巡り ~新・雨月物語~』/富樫倫太郎 〇

【中古】 天満ばけもの巡り 新・雨月物語 / 富樫 倫太郎 / 中央公論新社 [新書]【メール便送料無料】【あす楽対応】 - もったいない本舗 楽天市場店 かつて、私・水無月・Rが学生時代一番真剣に取り組んだ文学、『雨月物語』。その作者である上田秋成が、まだ著作を始める前の物語。とはいえ本作は、ほぼ『雨月物語』と関係がないです。ちょっと残念。 前作である『曽根崎比丘尼 ~新・雨月物語~』を読んだのが、2010年の1月。その時点で続編があることはわかっていたのですが、何となくそのままになってしまっていて、14年半の歳月を経てしまいました。 前作の事件で犯人と目され投獄されてしまった未だ上田秋成になってない仙次郎は、事件被害者の証言によって、なんとか獄を出ることができたのだけれど、その証言をしてくれた人の「天満に出る幽霊を捕まえてくれ」という頼まれ事を果たすために、天満の北木幡町を訪れる。幽霊が出るという家を訪れると、その家の使用人だった女が庭を掘り返していることに気づき、その女を罠に掛けると、家には「笑い猫」という化け物が現れ、女を殺し、強欲な大家とその使用人たちをも殺し、更には仙次郎とともに幽霊屋敷を見張っていた徘徊仲間の茶狸(さり)を攫ってしまった。 茶狸を救うために、仙次郎は勝峯寺の小僧・楽哲とともに、天満のばけものたちのもとを訪れ「笑い猫退治」に協力してくれるよう頼み、なんとか異界に隠れる笑い猫のところへたどり着く。ばけものたちの死闘により、笑い猫は封じられるが、その際仙次郎と楽哲は…

続きを読む

『コメンテーター』/奥田英朗 ◎

コメンテーター [ 奥田 英朗 ] - 楽天ブックス 久しく読んでいなかった奥田英朗さんの〈伊良部シリーズ〉。しかし、そんな長い休養期間(笑)をものともせず、パワーアップすらして帰ってきましたよ、トンデモ精神科医・伊良部が!!今回、なんと伊良部がワイドショーの『コメンテーター』を務めるという、という放送事故多発しか目に浮かばない事態から、物語が始まります。 うん・・・、だよねぇ(笑)。前作『町長選挙』の時も、「伊良部って、本当は名医なの?そうなの?!」って、書きまくってましたよ、私は。それは、年も前のことなのに、いまだに覚えてます(笑)。で、本作でも、ついつい〈伊良部って、ホントは名医なの?!すごい精神科医なの?!〉が、頭をぐるぐる回ってしまっていました。 ・・・いや、絶対に違うんだけどね。違うんだけど、なぜか、患者たちはみんな回復しちゃうのよ。「行動療法」と称して伊良部(時には看護師のマユミまで)の欲望やらおふざけやらに付き合わされる患者たちにとっては、迷惑極まりないはずなのに、結局は自分が籠っている殻をぶち破る結果になって、彼らは回復して通常生活(ただし伊良部の影響は残ってるので、ちょっとクレイジーな傾向がある)に戻っていく。そして、たぶん、彼らは再発しないでしょう。「行動療法」というか「ショック療法」ですよねぇ。他の医者じゃこうはいかない(だって普通のお医者さんは、こんなにぶっ飛んでない)し、たぶん他の患者では同じ療法は効かないんでしょうねぇ。オーダーメイドな療法といえば聞こえはいいけ…

続きを読む

『成瀬は信じた道をいく』/宮島未奈 ◎

成瀬は信じた道をいく [ 宮島 未奈 ] - 楽天ブックス 前作『成瀬は天下を取りにいく』で、私の心をガッツリ掴んだ、真っ直ぐに我が道を貫く少女・成瀬。そんな成瀬の大学入学前後の約1年間を描いた本作『成瀬は信じた道をいく』は非常に魅力的で、読んでいてとても楽しかったです。奇想天外というか、予測不能というか、ホントになんでも前向きに取り組んで、なんというか・・非常に清々しいです。宮島未奈さん、成瀬は素晴らしいキャラクターに育っていますね!ありがとうございます! 本作でも、成瀬に憧れる小学生女子、成瀬父、成瀬のバイト先のスーパーにクレームを入れるお客、成瀬と一緒にびわ湖大津観光大使を務める女の子、そして成瀬の幼馴染・島崎の目線で、成瀬が成し遂げていく様々な出来事が語られていくのですが。・・・みんな、成瀬に感化され魅了されてるなぁ、でもそれは成瀬が真っ直ぐだからなんですよね。 前作の時にも書きましたが、成瀬って本当に思いついたことはなんでも真剣に取り組む。だから、周りはついついそれを応援というか力を貸したくなってしまうし、自分の本心とも向き合って「自分ももっと頑張ってみよう!」って前向きに頑張れてしまう。押しつけがましさは一切なくて、周りの本気を引き出してしまえる魅力が、成瀬にはあるんですよねぇ。 5章ある中で一番好きなのは、本作の集大成といってもいい「探さないでください」なんですが、その前の4章および前作を踏まえてオールキャストで成瀬を追いかける構成なので、別格なんですよね。まあ、タイトルどお…

続きを読む

『真夜中のたずねびと』/恒川光太郎 ◎

真夜中のたずねびと (新潮文庫) [ 恒川 光太郎 ] - 楽天ブックス 恒川光太郎さんの作品にはいつも、〈見たことがないのに、郷愁を覚える〉世界が広がっています。淋しくて、切なくて、あたたかくて、〈振り返れば、ここではないどこかに吸い込まれてしまう〉かのような感覚を、そっと呼び起こすような。本作『真夜中のたずねびと』も、真夜中の闇にひっそりと佇む5つの物語に、喉の奥が凍るような怖ろしさとほのかな安心感が共存していたように、感じました。 「ずっと昔、あなたと二人で」しゃべれない少女は、占い師の老婆から使命を受ける。「母の肖像」長く音信不通だった母が、探偵を雇って自分を探した理由。「やがて夕暮れが夜に」弟が殺人を犯し、一家離散。姉のもとに〈憎しみ〉を名乗るものが接触してくる。「さまよえる絵描きが、森へ」一人旅の途中で出会った男から、告白文が届く。「真夜中の秘密」とある女と知り合い、彼女の秘密に触れる。再度現れた彼女は、失踪した。 少しだけ重なり合う登場人物、人探し、人の中にわだかまる闇。同じ世界の中で、関わりあう人たち。誰もが、後ろめたい思いを抱えている。希望と失望は背中合わせに存在し、生と死の境界は曖昧になる。それでも、生きることを決めた人たちには、切り開くべき道が見えてくるのでしょう。それは、救いなのか贖罪なのか、後悔なのか願望なのか。登場人物たちが決めることでもあり、読者である私たちがそれぞれに感じ取ることなのかなと思いました。 その観点から考えると、私には「どの物語にも、多少なりとも…

続きを読む

『七十四秒の旋律と孤独』/久永実木彦 ◎

七十四秒の旋律と孤独 (創元日本SF叢書) [ 久永 実木彦 ] - 楽天ブックス 壮大で、切なくて、でも温かくて、とても素敵な物語でした。宇宙空間でのワープの際、人間には認識できない七十四秒間が発生するという。それを狙って襲い掛かる宇宙海賊に対抗する手段として宇宙船に搭載された人工知性ロボット「マ・フ」たちの、長い長い歴史の物語。久永実木彦さんの描く、彼らの『七十四秒の旋律と孤独』は、美しい旋律と機械同士の過酷な戦いと、そして長い時間の果てに再会したマ・フと人間の互いへの複雑な思いと記憶と創作される歴史の織りなす、見事な物語でした。 最初の章の「七十四秒の旋律と孤独」で、とある宇宙船に搭載された朱鷺型ロボット・紅葉の日々が描かれる。ワープの際の襲撃を防ぐことが彼の仕事だが、幸いにしてそのような事態は起こったことがなかった。だが、とうとうある日襲撃を受け、七十四秒間の死闘を繰り広げ、乗組員と船を守った末に、彼の機能はシャットダウンする。彼の最後の望みは、船に搭乗していたメアリー・ローズの深く澄んだ海王星のブルーの瞳に、自身を映すことであった・・・。乗組員の飼い猫に焦がれ、最後にその目の前で力尽きた紅葉。でも、彼の願いはきっと叶えられたのだろうと思います。そして、彼がそれを純粋に願うことが、機械であるマ・フに与えられる救いであったと思います。機械であっても、心を持ち、求め願い、与えられ救われる。そんな優しい世界が描かれていました。 それに続く「マ・フ クロニクル」の五つの短編。人間が姿を消し、…

続きを読む