『マイクロスパイ・アンサンブル』/伊坂幸太郎 ◯

本作『マイクロスパイ・アンサンブル』は猪苗代で行われた音楽フェスの手土産用に描かれた短編を集めた1冊だ、という情報だけは入っている状態で、読みました。伊坂幸太郎さんらしい、軽妙な会話とスピード感ある展開、エピソード同士の意外な繋がり方、非常に楽しめました。 ただ・・・・とにかくやたら歌の歌詞が太字で物語に入ってくるのだけど、残念ながら全然知らない曲なので、今ひとつ世界観への共鳴がなくて。「たぶん、フェスのテーマ曲なのかな~」と思っていると、どうも曲の数も多いような。基本的に「あとがき」は物語を読了してから読むようにしてるんですが、どうにも訳が分からず我慢ならなくなって「あとがき」に目を通してやっと、「Theピーズ」「TOMOVSKY」というアーティストの楽曲を使用していたことを知りました。・・・すみません、どっちも知りません。J-POPというか音楽全般に疎いので、メジャーなアーティストなのかどうかもわかりません・・・。ファンの方、ごめんなさい。 物語は、「失恋の男」と「任務の男」の、全く違う2つのパートが交互に語られていきます。失恋の男・松嶋は、失恋の後社会人になり、会社員として色々な出来事に出会っていく。任務の男は、どうも現実世界とはちょっと違う世界線で、スパイとして活動している。最初はエージェント・ハルト視点だったけれど、途中からハルトが任務中に偶然いじめから救出した少年(訓練を受けて彼もスパイになる)に切り替わる。 読むうちに、スパイたちの世界は虫を改造して乗り物にするような、「ナ…

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『27000冊ガーデン』/大崎梢 ◎

公立高校の図書室司書の駒子が、図書室に持ち込まれる様々な謎を書籍納入書店の針谷とともに解いていく、大崎梢さん得意の書籍関連業界ミステリー。タイトルの『27000冊ガーデン』は、高校図書室の平均的な蔵書数が2万7千冊であることから、つけられたもの。27000冊もある書籍が美しい庭園のように広がる図書室、思春期の高校生たちが本との良いめぐり逢いをして欲しいと、私も願っています。 といいつつ、私は高校時代はあまり学校図書館室を利用してなかったです。中学までは学校図書室で借りてきた小説を読んだり、読書部に入ったりしてたんですが、高校の図書室に行ってびっくり。「小説じゃなくて、勉強の本ばっかり!!」と。学校の図書室を利用するのは、レポートなどの調べ物があるときだけになり、小説類は通学途中にある公立図書館のほうが充実していたので、そちらを利用してばかりいました。あと、この物語のようにアットホームな雰囲気じゃなかったんですよね、学校図書室。30年以上前のことだから、時代かなぁ(笑)。そういう意味では、駒子のいる戸代原高校の生徒たちが羨ましかったですね。 大崎さんは今までも、本屋・出版社・図書館(本バス・移動図書館)などを描いてきたけど、今度の舞台は公立高校の図書室。深刻な謎もあるものの、解き明かされたあとはほのぼのと心温まる心地になれました。基本的に悪い人や悪辣な犯罪はでてこないので、安心して読める短編集でしたね。まあ、ちょっと〈優しい世界〉がすぎるかな~、読書好きが必ずしもいい人ばっかりではないし、謎に関…

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『ボタニカ』/朝井まかて △

前回読んだ同じ著者の朝井まかてさんの『類』と同じく、「実在の人物を非常に詳しく描き、その功績や周りの人物たちとの関わりを丁寧に記した物語ではあるものの、〈私の個人的な趣向として合わない〉」物語でした・・・残念。牧野富太郎といえば、2023年のNHK朝ドラの主人公で非常にタイムリーであるし、我が高知(少女期3年半住んでいただけ(笑))の誇る、偉人でもあります。だが・・・、だがしかし、ここまで〈ダメな人〉だったとは、知らなかったですよ。結構ショックです。幕末・明治・大正・昭和の植物研究を牽引し、多大な業績を残した牧野富太郎博士を描く『ボタニカ』、私的に好みではなかっただけで、物語としてそして実在の人物の姿を伝えるものとしては、素晴らしかったんだと思います。 読み初めの頃は、「そうながよ、高知は「坂本龍馬」「板垣退助」だけじゃないがよ、「牧野富太郎」も高知県(土佐)の誇る偉人ながよ!」と、意気揚々と読んでたんですよ・・・。旧制中学も「学ぶものなし」と自主退学、佐川村での植物学研究に勤しみ家業にもつかず、採集と研究の日々に明け暮れている様子も、「まぁ~、ボンボンだし、仕方ないなぁ。お金があってそれを学問に使えて、日本の知識教養の発展につながるなら、素晴らしいことだな~」なんてのんきに読めてたんですけどね~。従姉妹の猶を嫁に取り、東京との行き来をし始めたあたりから「ちょっと、ワガママが過ぎんか?」という感想が頭をもたげ始めたわけですよ。そうこうするうちに、東京で一回り以上歳下のスエを妊娠させてしまい、本宅…

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『横死〈闇の西洋絵画史(5)〉』/山田五郎 ◯

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている山田五郎さん。本書『横死〈闇の西洋絵画史(5)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの5冊目。表紙のジョン・エヴァレット・ミレイの《オフィーリア》を見た途端、「樹木希林さんの広告!」と思ってしまった私は、かなり俗物です(笑)。 数年前、「死ぬときぐらい、好きにさせてよ」というコピーでこの絵を模して樹木希林さんが水死体を演じた広告があったのですが、再現性が高いのに希林さんの個性が強烈に伝わってくるその構図に、目を奪われましたねぇ。本文中で~~夏目漱石が「風流な土左衛門」と評した死~~とあり、そういえば学生時代にそんなことを知った記憶も蘇ってきました。風流と土左衛門(水死体)という、普通に考えたら両立し得ない表現が見事に当てはまる絵画ですよね。素晴らしい。絵画としての構図も彩りも、美しい。発狂して歌いながら穏やかに溺れ死んでいく豪奢なドレスの美しい令嬢、という「横死」というテーマにぴったり。 「横死」とは、非業の死・不慮の死をさす言葉ですが、幼くしての死、病に冒されての死、事故による死、裏切られての死・・・どの死を描いた絵にも、見る者の心を激しく揺さぶるインパクトがあります。「聖書の死」「神話の死」「権力者の死」「哲学者の死」「佳人の死」「民衆の死」、描かれる死者の属性は違うし、描かれた時代・技法・伝えたいこともそれぞれに違うのに、暗い画面から伝わってくる虚しさや苦々しさに、「ま…

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『腐れ梅』/澤田瞳子 ◯

実は、レビューのタイトルで評価に◯を付けたけど、「どうなんだろう・・・」と思ってしまっている本作『腐れ梅』だったりします・・・。私の中では【北野天満宮】といえば学問の神様なんですが、こんな縁起があったとしたら面白いなぁ・・とは思うんですよ。ただねぇ、主人公の綾児にイマイチ魅力を感じなくて。いや、綾児に魅力がないわけじゃなくて・・なんだろう・・・共感できないと言うか、私が求める主人公像とちょっとズレてるというか・・・。わがままだなぁ(笑)。そんなわけで、ごめんなさい、澤田瞳子さん。初読みなのに、盛り上がりに欠ける読み方をしてしまいました。 平安の世、場末の似非巫女として生きる綾児は、自らの美貌だけを頼りに日々を生き延びている。ある日、醜いのに何故か上つ方の客がつく同業者の阿鳥から、〈40年以上前に死に、都を祟る怨霊としての菅原道真を祀る社を作って、綾児がその巫女になってくれ〉と誘われる。面倒くさい、うっとおしいと思いながらも、住処の片隅に祀っていたところ、菅原道真の孫だという貴族・文時が現れ、阿鳥と共謀し始める。文時が北野の地に建てた社に移り住み、文時の友である最鎮という僧侶がブレインに付き、北野社の筆頭巫女となった綾児だが、性根は下世話で賢さはなく、その場その場の勘や意地や勢いで物事に対応していく。それでも綾児の機転で、右大臣・藤原師輔の後ろ盾を得た北野社は、次第に発展していく。さらなる発展と、文時や最鎮から社の主導権を奪うために、綾児は京の外れに住む庶民を引き連れての熱狂的な神輿道中を始めるも…

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『不見の月 ~博物館惑星Ⅱ~』/菅浩江 ◯

前作である『永遠の森 ~博物館惑星~』から、19年ぶりの続編(私が読んだのは13年前)。地球の衛星軌道上に人工的に作られた博物館苑衛星〈アフロディーテ〉を舞台に、芸術と人との関わり、芸術の評価、データベースコンピュータと直接接続している学芸員たちの奮闘、芸術家やその周辺の人々を描いた、『不見の月 ~博物館惑星Ⅱ~』。 実は、本作の主人公は学芸員ではなく、新人警備員の兵頭健。彼は、警備員でありながら、情動学習型のデータベース〈ディケ(正義の女神)〉と直接接続して、その学習成長に関わっている。同じ新人の学芸員・尚美シャハムに突っかかられたり、協力したりしながら、様々な事件に関わっていく。 正直なことを言うと、前作を読んだ時「自分には芸術鑑賞力がない・・・芸術を理解する素養が弱すぎる・・・」と頭を抱えたのですが、本作でもちょっと入り込みづらかったです・・・。救いは、健が学芸員ではなく、かつ〈ダイク(ディケの男性名称)〉を育てるための接続をしているおかげで、芸術に対する深い造詣がなくても、一緒に理解しようと頑張ることが出来たことですね。・・・それでも難しかったのは、事実ですが・・・。 各章で健と〈ディケ〉が関わるのは、老師匠に傾倒するあまりオリジナリティを広げることのできなくなった芸術家と彼を押し立てようとする画商、細部に拘りすぎるミュージカル批評家と彼女を狙う道具係の少女、〈アフロディーテ〉を開闢当初から知る手回しオルガンの奏者・・・など、芸術家だけではなく、その周りで関わりを持つ人々や、彼らの持…

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『エンディングドレス』/蛭田亜紗子 ◯

長い闘病を続けた夫を喪った麻緒は、失意の底で〈終末の洋裁教室〉の貼り紙を見つけ、自分の死に装束=『エンディングドレス』を〈夫に会いに行くための服〉として自分で縫うことを決意する。『共謀小説家』、『フィッターXの異常な愛情』、と最近読んできた蛭田亜紗子さんの作品とはまた違う印象の作品です。 私、家庭科の被服分野って、微妙に苦手なんですよね~(いや、調理も得意じゃなかった・・・)。持ち前の〈優等生体質〉で、なんとなく平均点ラインぐらいのものは作成できるんですけど、まずセンスが無いので〈素敵〉にならない。更に言うと、「どうせ私が作るものより、市販品のほうが何倍も出来が良くて、コスパがいいんだよねぇ」と思ってしまって、丁寧に取り組むことが面倒になってしまう。結果、「自分で作った」ことだけが取り柄の、どーでもいいものしか仕上がってこないというわけです(笑)。 そんな私が読む、「主人公・麻緒がエンディングドレスを作るまで」の物語。何となく、先生に言われるがままにいくつかの課題に取り組みながら、今までの人生を振り返ったり、同じ教室参加者たちの服への思いを聞いたりし、丁寧に服を作っていく過程で自分を見つめ直していく麻緒。 途中で、教室仲間の千代子さん・おリュウさん・しのぶさんたちの秘密や、同窓会、義妹の出産、などをはさみ、前を向いたり時には全てを捨てて夫の元へ旅立とうとしたり、心を揺らしながら〈エンディングドレス〉を作るまでの過程を一歩ずつ進んでいく。そんなふうに麻緒が立ち直っていくんだろうな、という展開は…

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『ババアに足りないのは愛!+60からのHappyおしゃれBOOK』/地曳いく子×槇村さとる ◯(実用書)

凛としたファッションで我々〈おしゃれが迷子になっちゃった、おしゃれ更年期〉世代の背中を押して下さるスタイリストの地曳いく子さん、颯爽とした登場人物たちが魅力の漫画家の槇村さとるさん、このお二人のシリーズも、もう3冊目。本作『ババアに足りないのは愛!+60からのHappyおしゃれBOOK』では、〈祝!還暦!〉を迎えた人生の先輩お二人が、縦横無尽に+60のリアルを語り尽くして下さいます。 私はまだ50代前半、+60にはちょっと早いので、読むのはもう少し後回しでもいいかな~なんて思ったりもしたんですが、「ま、早めの予習と思えば良いよね~♪」ってこと、手にしてみたのですが、「あるある!」続出、おしゃれのお手本になる情報満載、そして「今ですら困ってる乾燥が、もっと大変になるのか・・・」というビビリ、そして〈それでも年歳を重ねて素敵な女性になれる!!〉という確信を得られ、大変勇気をもらえました。 おしゃれに関しては、ホント試着が大事になってきましたね~。昔は、サイズだけ見てパッと買ってもそれなりに着こなせてたのに、今じゃ同じデザインのサイズ違いを試着しては前後左右鏡をチェックした上に、立ったりしゃがんだり足踏みしてみたりしないと、買えない。ネットで同年代のモデルさんが素敵に着用されてたおしゃれな服が、私が着ると「え~と、これは何かな?なんの事故かな?」ってぐらい酷い出来上がりになっちゃう。槇村さんのように、鬼のごとく試着しまくり、その上で自分にあわせたアレンジを加えていかないと、ですね~。ユニクロみたいな…

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『髑髏〈闇の西洋絵画史(4)〉』/山田五郎 ◎

You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、絵画鑑賞初心者の私にもわかりやすく面白い絵画解説をしている山田五郎さん。本書『髑髏〈闇の西洋絵画史(4)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの4冊目。表紙のどんよりとした背景に浮かび上がる、青ベースにもかかわらず妙に派手派手しい衣をまとった髑髏が印象的です。これは・・・クリムトかぁ・・・なるほどねぇ。 実は私、絵画モチーフとしての〈髑髏〉って、結構好きなんですよね。確か、中学の美術で何をテーマに描く授業だったのか忘れましたが、髑髏を描いた記憶があります。多分、ちょっと中二病的な感じで(笑)。画力がだいぶ悲惨だった私が描いたものとは比べ物にならないぐらい意味深く様々な髑髏の絵画が、本書では紹介されています。 髑髏といえば、まずは〈死〉の象徴。「メメント・モリ」「ヴァニタス」「アダムの髑髏」、どの章で解説される絵にも〈死〉が描かれています。メメント・モリ(死を想え)とは、人は必ず死ぬのだから何をしても無駄・無常である・・・ではないのだそうです。「後悔しないように生きよ」ということ。貧富貴賎を問わず死は誰にでも平等に訪れる、だからこそ限りある生命を謳歌せよ、芸術家達は死神が自分に寄り添う姿を描き、死も生も性も人の一生には必ず沿うてくるもの、山積みになる髑髏は反戦のシンボルとなり、ポップアートの象徴アンディ・ウォーホルすら死の影に怯える。思っていた以上に、髑髏というモチーフは、多くの依頼主がいて、画家の想像力を刺激し、鑑賞する人々に強烈な…

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『ルージュ ~硝子の太陽~』/誉田哲也 △

先々月、順番を間違えて先に『オムニバス』を読んでしまい、間に挟まっていた『インデックス』を読み、今回やっと本作『ルージュ ~硝子の太陽~』にたどり着きました。上記2作は短編集で本作は1つの事件をじっくり追う長編、同じ誉田哲也さんの〈ジウ〉シリーズ(未読です・・・)とクロスオーバーするという、凝った構成の作品。誉田さんファンにはたまらない作品・・・のはずだったんですが・・・。 なんかねぇ・・今ひとつピンとこなかったんですよ、本作。冒頭で凄惨な一家四人惨殺事件の独白があり、続いてこのシリーズの主人公・姫川玲子の事件捜査の様子が描かれる。同じ事件のつもりでいたら、殺された人数や家族構成が違うということに気付き、ギョッとさせられる。そのうち冒頭の事件の犯人が、ベトナム戦争帰りの退役軍人であることが明かされ(犯行当時は現役)、しかも日本で生活していることがわかる。姫川が追っていた事件の現場付近で不審な行動をしていた男が殺され、姫川は菊田と小幡と共にそちらの特捜本部へ担当替えとなり、そこでガンテツこと勝俣が忍ばせたネタに反応して、捜査の行方は意外な方向に向いていく。姫川の捜査の合間に、一家四人惨殺事件の犯人の日常や2つ目の事件の陰惨な死体損壊が描写され、勝俣は姫川を貶めんと暗躍し、とにかくどんどん胃の重い展開が続いていく。この事件の解決って、あとの残りページでたどり着けるの?と思い始めたあたりで、一気にことは進展するのですが・・・。 え?ちょっと待って。これって、事件を描きたかったんじゃないよね?ただひた…

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