『恐怖小説 キリカ』/澤村伊智 ◎

とりあえず夏になったしホラーでも読むかな~、となるとやっぱり澤村伊智さんだよねぇ、でも『ぜんしゅの跫』は予約の順番がまだ回ってこないんだよなぁ、じゃあ比嘉姉妹シリーズ以外でどうかな?ということで、本書、『恐怖小説 キリカ』を選んだのだけど。あばばばば・・・、これはアカンやつやん。絶対、アカンやつやん。色んな意味で、ホラーでした(笑)。 とりあえず、読み終えて、「これ、ネットにレビュー上げて大丈夫なんだろうか」と思ってしまった私を、思い切り笑ってやって下さいまし。いや、フィクションなのは分かってますよ?でも、でもですね。新人作家・澤村伊智が『ぼぎわん』でホラー大賞取って、次作が『ずうのめの人形』で、3作目は別の出版社から『恐怖小説 キリカ』って、まんまじゃないですか。こういう行動原理で、殺人を犯す人間がいるかもしれないという、恐怖。しかも「その後ー文庫版あとがきにかえて」まで、気が抜けないんですよ。この小説を間違った解釈をして行動する者まで出てきて、もしかするとそれは私が書いてるレビューに過剰反応するかも知れない・・・とかね、思っちゃうわけですよ。いや、そんなわけないですけど。 ある意味、「小説家のイメージを利用して、フェイクドキュメンタリーを書いてはどうかという講談社の提案」という設定、すごいですよね。そして、その展開を小説化したものを、この世に出してしまった講談社、恐るべし。ですよねぇ。ホントに〈リアル澤村さん〉は、講談社にそう言われたのかしら。その発想をここまで膨らませてひねりを利かせて描…

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『吾輩も猫である』/赤川次郎 ほか(アンソロジー)◯

夏目漱石没後100年&生誕150年を記念して編纂された、猫好き作家による〈猫アンソロジー〉、『吾輩も猫である』。どの〈猫〉も、愛らしく懸命に生きている姿が、とてもほほえましかったですねぇ。どちらかというと猫派なワタクシ、どの物語も「うふふふ・・・」とニヤケ顔で読んでおりましたよ。 「いつか、猫になった日」赤川次郎何故か猫になった私の死因は心中?「妾は、猫で御座います」新井素子天然作家の陽子さんが飼っている猫は、人を守っている。「ココアとスミレ」石田衣良猫が集会ですることは。「吾輩は猫であるけれど」荻原浩猫の四コマ漫画。猫って自由。「惻隠」恩田陸とある機械と語る猫の尻尾の数は?「飛梅」原田マハ公家猫の若様、京を下って筑紫に来た経緯。「猫の神様」村山由佳主を思う猫、背中を押す。「彼女との、最初の1年」山内マリコ芸大生の女の子と暮らし始めた野良猫。 どの猫も、それぞれその猫らしく小生意気ながらも健気に主を思っているのが、本当に微笑ましくて、良かったです。特に「飛梅」の若様。かなりの苦難の生い立ちから、御所脇の和歌の先生のところで保護され、病がちで弱ってるところを福岡で「猫本専門」のネット本屋を営んでいる店主に引き取られるまでの経緯を描いたお話なんだけど。弱っている若君を先生を始めとした女性たちが一生懸命に「乳母」として看病し、こんな病弱ではとてもではないけれど福岡まで連れ帰っても・・・と店主に伝えたのに対し、「私は若君を幸せにしたい、すべての猫は幸せになるために生きている」と応えた店主。それを聞いて…

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「縄紋』/真梨幸子 ◯

真梨幸子さんと言えば、イヤミスの女王。本作、『縄紋』は、イヤミスと言うほどではないにしても、ちょっとエグい描写もあったし、やっぱり最後に「マジかよ!!」と叫んでしまうような展開があったりして、なかなかに楽しめました。特に後半。ちょっと前半は、「縄文時代」の認識が甘かった私がついて行けなくて、大変でしたが(笑)。 フリー校正者の興梠は、自費出版の『縄紋黙示録』の原稿の校正を依頼され取り組み始めるが、「縄文」ではなく「縄紋」であるところから引っかかったり、古代史への知識が少ないため苦労する。歴史学に詳しい元同僚・一場を呼び出し、レクチャーしてもらうはずが、なし崩しに同居する羽目に。調べれば調べるほど、縄紋(文)文化の文化水準の高さや異様さが浮き彫りになり、また現代との関連性もかなりあると分かってきて、『縄紋黙示録』の内容や雰囲気に引きずられるようになる興梠と一場。実は『縄紋黙示録』を著したのは、夫と娘を猟奇的に殺し拘置所に収容されている容疑者・五十部靖子。この本を出すことで「精神に異常があるため責任能力がない」と判断されることを期待しているのでは・・・?と思われている。五十部の弁護士の小池、編集者の牛来、その前任者の望月なども、『縄紋黙示録』の異様な吸引力に引き込まれ、常軌を逸していく。 と、あらすじを書こうとして、書ききれないな~難しすぎるわ~と、途中で断念しました。まず、冒頭にも書きましたが私が認識してた縄文時代って、それこそ作中でも一場たちが言ってたけど「縄文時代とは歴史の授業の最初の1時間…

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『レジェンドアニメ!』/辻村深月 ◎

本作『レジェンドアニメ!』、『ハケンアニメ!』の続編と勝手に思いこんでましたが、スピンオフ短編集でした。プロデューサーの香屋子、監督の瞳、原画師の和奈の3人を中心に、アニメ業界の仕事の厳しさややりがい、関係する人たちの作品への思い入れ、視聴者にも届く情熱、関わる全ての人達の『愛』が伝わる、とても勢いがあって、楽しく読める作品でした。辻村深月さん、今回も色々詳しく描いてくださって、ありがとうございます! 本当に、それぞれがそれぞれの全精力を担当作品につぎ込み、とにかく「良いものにしたい、届けたい」と作り上げる作品が素晴らしい。作中のアニメ、魅力的で、どれも見たいですもん。作中作の魅力ももちろんだし、登場する人たちがみんな、人間的にクセがあってメンドクサイ人たちだけど、とにかく情熱がすごい。 各編で時代は結構異なるんだけど、王子の新人時代のトンガリ具合や、未だに香屋子に対してはヘタレなところとか(ていうか、ホント香屋子はニブすぎる・・・)、瞳の淡々と努力を惜しまないところ、和奈のこだわりや逡巡、それぞれのキャラをより掘り下げて描かれた感じが、とても面白かったですね。 「ハケンじゃないアニメ」が良かったです。ご長寿子供向けアニメでも手を抜くことなく、「より良いものを求めて」新たなOP動画のために奔走する制作会社スタッフ、依頼されて「作品を見てなかったので思い入れはない」と言いながらも様々な資料を集めて最高なものを作り上げようと努力する瞳、老齢になって原画を描くのが辛くなっても必要を説かれたら全身全…

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『透明な夜の香り』/千早茜 ◯

千早茜さんの描く、体温が低そうで儚い感じがする男性って、一瞬好きになりそうなんだけど多分私とは合わないんだろうなぁ、と思います(笑)。本作『透明な夜の香り』の調香師の朔も、絶対に一緒にはいられないタイプですね。まずは、向こうから拒否されそうですが。 とある理由でアパートに引き籠もっていた一香は、どんな香りでも再現出来る調香師の朔の元で、家政婦兼事務員として働き始める。あらゆる香りを嗅ぎ分け、家の外にいる人の体調すら分かってしまう朔は、一香に化粧水やボディクリームなど自作したものを無償支給し、日々の生活にも強い香りのもとになるようなことを避けるようにいう。朔の顧客たちは、特別な香りを依頼していく。それがどんな欲望であったとしても、〈嘘〉がなければ調合して渡す。それを使用するのは、顧客の自由だと言って。 静かに、ひっそりと漂う香りと、香りを中心とした穏やかな日々、ゆっくりと丁寧に過ごす朔の屋敷での日々は、一香の心身を少しずつ癒やしていったのかもしれません。朔の穏やかさはもちろん、新規顧客を連れてくる朔の親友・新城や屋敷の庭師・源さんとのやり取りの生命感溢れる感じ、時折遭遇する顧客とのトラブルもまた、一香の輪郭をはっきりさせてきたように思います。 香りを嗅ぎ分け、なんでも分かってしまう朔は、それはそれで辛いのだろうなと思います。〈嘘は臭う〉と嘘を嫌う理由も、つらい過去につながるものであったし、ニュートラルな香りの一香にやや依存するような面もあったのではないでしょうか。なので、終盤に一香にとある香り…

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『これからの暮らし by ESSE vol.2(春夏号)』/エッセ2022年6月増刊号 ◎

前号『これからの暮らし by ESSE vol.1(秋冬号)』が非常に良かったので、いつ次の号が発売されるのかとずっと春先からチェックしておりました。なかなか出ないので、これはもう紙媒体は創刊号限りで、あとはWEB出版になっちゃうのかしら、紙媒体で読みたいわ~と待っていたら、満を持して発行されたじゃありませんか、『これからの暮らし by ESSE vol.2(春夏号)』。しかも、特集が「お金管理術」。やっぱり読むしかない!! 「まだ間に合う!人生100年時代の新・お金管理術」・・・、なんて頼もしい特集タイトル。50~70代のリアル家計簿公開とか、すごく参考になりました。我が家はまだ夫も現役で健在、子供たち(成人済み)もいて、家計的にはまだまだ現役世代なので、これが老後になるとこんなふうになるんだ~と、感心しきり。生活における工夫も、節約節約でせせこましく心貧しくなるんじゃなく、お金をかけなくても自分が気持ち良いように自由に工夫する事ができる、っていう具体例を見ることが出来て、とても良かったですね。 「トクする年金の受け取り方」も、目からウロコ。これは永久保存版ですね!・・・あ、もちろん、制度改正でこの記事があまり参考にならなくなることもあるでしょうから、過信は禁物ですが。 「みんなの更年期体験談」、ビクビクしながら読みました。もうホント、ボチボチ更年期入ってきたよねって感じで、昔ほど無理が効かない気力も体力も続かないのですよ。とは言え、世に聞こえてくる程の大不調というわけでもないので、いつこ…

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『椿宿の辺りに』/梨木香歩 ◯

『f植物園の巣穴』を読んだのが、なんと13年も前のことでした。不思議な浮遊感に酔いしれて、梨木香歩さんの作品群をより好きになるきっかけになった物語でした。その続編ということで本書『椿宿の辺りに』を手に取ったらば、なんと時代はだいぶ後のことになり、前作の主人公・佐田豊彦の曾孫世代が〈自らの「痛み」の原点を探る〉という壮大な物語でした。植物だけでなく自然や風景の描写が、美しく意味が深く、読んでいて清々しくなることもあれば、不安感を煽られたりもしました。読み終えるのに時間はかかりましたが、とても心地よかったです。 f植物園の園丁・佐田豊彦の曾孫・佐田山幸彦(通称・山彦)は、原因不明の頭痛・腰痛・肩痛に悩まされていた。母方の祖母の寿命がそろそろ尽きるのでは・・・と、介護に行っていた母に告げられ、休暇を取って帰省することに。父方の従姉妹の海幸比子(通称・海子、女性)も山彦同様に体各所に原因不明の痛みを感じており、彼女の紹介で母方の実家付近にある鍼灸院「仮縫鍼灸院」へ行ってみると、鍼灸師の仮縫氏の双子の妹・亀シ(霊能者?)が、「痛みの原因は父方の実家方面にある」と言い出す。ちょうど、父方の実家で有していた貸家の店子(彼の名は宙幸彦、通称・宙彦だという)とやり取りをせねばならないという状態であったため、山彦は亀シとともに、その貸家のある〈椿宿〉へ行くことに。椿宿へ着く前に店子の母・竜子と知り合い、彼女とともに〈椿宿〉を訪れた山彦たちは、貸家や貸家の庭にある稲荷を整えているうちに、地元の教育委員会の関係者・緒方…

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『汚れた手をそこで拭かない』/芦沢央 ◯

タイトルの『汚れた手をそこで拭かない』が、各短編のイヤ~な感じをよく表現していたと思います。ちなみに、各短編のタイトルはこれとは全然違いますが、各作品をうまくまとめた感じがしますね。芦沢央さんは、『許されようとは思いません』以来です。あの作品より「イヤ~な感じ」が絶賛増量中だな!って思いました。 ところでこの作品、〈イヤミス〉とのことだけど、う~ん、ミステリーだったのかという疑問が・・・。ひたひたと忍び寄るイヤ~な感じを、なんとか解消しようともがく心理的な謎解き部分があるから、それがミステリなのかしら。 しかし、とにかく読後感が酷い(←この物語の狙いを考えれば、褒め言葉です)。まさに、汚れた手で不意に近づいてこられたと思ったら、いきなり私の着ている服で拭われた感じ。しかも、拭った相手はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていて、気味が悪すぎて竦んでしまって、抗議の声も上げられない・・・。ってことで、非常に「うへぇ・・・」って気持ちになりますな。 どの物語も、最初は些細な綻びだったのが、取り繕おうとして嘘や偽証を重ねれば重ねるほど、取り返しがつかなくなってくる。そして、最悪の終結を迎える。「最初に正直に認めればよかったのに」と多大なる後悔を抱える当事者たちを、あざ笑うかのように。物語なんだからって、安心はできませんよ。ちょっとしたことを誤魔化そうとすることを、全くやったことがない人なんていないと思うし、実際私も取り繕ってそれがバレて、痛い目みたことありますし。 余命半年の妻に過去の罪悪感を告白する夫「…

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『光源氏と女君たち ~十人十色の終活~』/石村きみ子 ◯

先に宣言しておきますが、水無月・Rは〈アンチ源氏の君〉であります。美貌と才気を鼻にかけ、女君たちの表面しか見ずに自分の都合のいいようにレッテル貼りして、常に鼻高々で意気揚々と生きてるくせにちょっと自分に悪いことが起きると悲劇の主人公になりきってメソメソ。蹴っ飛ばしてやろうかしらん、と思ってしまうぐらいですよ(笑)。そんなワタクシが読んだ、石村きみ子さんの『光源氏と女君たち ~十人十色の終活~』。著者石村さん自身はアンチ源氏じゃないので、源氏礼賛な部分はかなりあったんですけど、それでも読んでて私の溜飲が下がるような章もあったので、良かったです。 タイトルに「女君たち」とありましたが、源氏の父・桐壺帝や、兄の朱雀院、源氏晩年の正妻・女三の宮を寝取った柏木など、男性に言及している部分もありました。それも良かったですねぇ。どうしても、女君たちだけだと「源氏に頼って生きていかざるをえない立場として、あまり源氏を悪く思えない」人が多くなってしまいますから。まあ柏木なんかは、寝取りの罪をネチネチといびられて神経がやられて死んでしまったので、哀れではあるのですが、私的にはアクセサリーワイフ・女三の宮を寝取って源氏の栄華に釘を差したという意味で、物語的には重要な立場だったと思うんですよね。当の女三の宮から、あまりいい扱いを受けられなかったのは、結構可哀想でしたが・・・。 六条御息所は、嫉妬のあまり生霊怨霊になるぐらい自我の強い女人でしたが、そこが彼女の魅力でもあります。その御息所の章で、御息所は「老いることで受…

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『キミのお金はどこに消えるのか ~令和サバイバル編~』/井上純一 ◯(コミックス)

前作『キミのお金はどこに消えるのか』で「理解はできるんだけど、納得いかないんだよな~」と思ってしまっていたのですが、本作『キミのお金はどこに消えるのか~令和サバイバル編~』でもやっぱり、「言ってることは、わかるんだけども・・・納得しがたい~!!」になってしまいました。井上純一さん、アタマの固い読者で、ホントにごめんなさい~~。あ、それと多分私「ゆる~く市場肯定派」です(笑)。 本作でも、中国人嫁・月(ゆえ)さんの「ナゼデスカ?」「オカシデスヨ!!」が大炸裂。月さんは共産主義で失敗した中国の出身だから、その辺の理解は早いですね~。ジンサンの意表を突く「正解!」なセリフをドーンと言ったり、インフレが嫌いだったり、素朴な質問が多出。経済素人な私も月さんと一緒に「日本のけ経済政策、どーなってんのよ~!」と、頭を抱えられるような展開で、大変面白かったです。 ただ・・・前作以上に「経済のムズカシイ話」が多くて、参っちゃいましたね~。「生産性を上げるには、消費を増やす」・・・ん~~、まあ、そうなんだろうけど、消費を増やすには収入が増えなきゃいけなくて、収入が増えるには生産性が上がらないといけなくて・・・あれ?堂々巡りになってるぞ。しかも、今すごい円安で資源高によるインフレはしてるけど、それは企業収益にならなくて、給料上がらないよ?企業が儲けを内部留保してるから、またまた給与が上がらない・・・うわ~ん、経済が上手いこと回っていく未来が見えないよ~。 しかもですね、私、「消費」が苦手なんですよ。あんまり物欲な…

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